妊娠期間中の美肌対策~漢方と薬膳で健やかな肌を保つために~
妊娠は女性にとって人生の中でも特別な時期です。新しい命を育む喜びとともに、体には大きな変化が訪れます。その変化の一つが、肌のトラブルです。「妊娠してから肌が荒れやすくなった」「シミが濃くなった気がする」「乾燥がひどくて困っている」といったお悩みを抱える妊婦さんは少なくありません。
杜の都の漢方薬局・運龍堂では、妊娠期間中の女性の健康と美容をサポートしています。今回は、妊娠中に起こりやすい肌トラブルの原因と、漢方や薬膳の考え方を取り入れた美肌対策についてご紹介します。
妊娠期間中に起こりやすい肌トラブルとその原因
妊娠すると、体内ではさまざまなホルモンの変化が起こります。特にエストロゲンとプロゲステロンという女性ホルモンの分泌量が大きく変動し、これが肌に影響を与えます。
1. 乾燥肌・かゆみ

妊娠中は体内の水分が赤ちゃんに優先的に供給されるため、母体の肌が乾燥しやすくなります。特にお腹周りや太もも、胸などは皮膚が伸びることもあり、乾燥によるかゆみを感じやすい部位です。
2. シミ・色素沈着(妊娠性肝斑)

プロゲステロンの増加により、メラニン色素が生成されやすくなります。そのため、頬や額、鼻の周りにシミができやすく、乳首や乳輪、脇の下なども色素沈着が起こりやすくなります。妊娠性肝斑と呼ばれるこのシミは、出産後に薄くなることもありますが、適切なケアが大切です。
3. ニキビ・吹き出物

ホルモンバランスの変化により、皮脂の分泌が増えてニキビができやすくなります。特に妊娠初期はつわりの影響で食生活が乱れたり、ストレスが増えたりすることも、肌荒れの要因となります。
4. 妊娠線

急激な体重増加や皮膚の伸びにより、お腹や胸、太ももに妊娠線ができることがあります。一度できてしまうと完全に消すことは難しいため、予防的なケアが重要です。
5. 敏感肌
妊娠中はホルモンの影響で肌のバリア機能が低下し、これまで使っていた化粧品が合わなくなったり、刺激に敏感になったりすることがあります。
妊娠時期別の肌トラブルの傾向
妊娠初期(0~15週)
ホルモンバランスの急激な変化により、ニキビや吹き出物が出やすい時期です。つわりによる栄養不足や脱水も肌トラブルの原因となります。
妊娠中期(16~27週)
比較的安定する時期ですが、シミや色素沈着が目立ち始めます。お腹の皮膚が伸び始めるため、乾燥対策が重要になります。
妊娠後期(28週~出産)
皮膚の伸びがさらに進み、妊娠線ができやすくなります。むくみによる肌のハリ不足や、乾燥・かゆみが強くなる時期です。
漢方から見た妊娠中の肌トラブル
漢方では、妊娠中の肌トラブルは「気血の不足」や「陰虚(体内の潤い不足)」、「血熱(血に熱がこもる状態)」などが関係していると考えます。
妊娠すると、母体の気血は胎児の成長のために優先的に使われます。そのため、母体自身の気血が不足しやすくなり、肌に栄養が行き届かなくなることで乾燥やくすみが生じます。また、ホルモンの影響で体内に熱がこもりやすくなり、これがニキビやかゆみの原因となることもあります。
妊娠中の美肌対策では、「気血を補う」「陰を養う(体に潤いを与える)」「熱を冷ます」という3つのアプローチが重要です。
妊娠期間中に美肌でおすすめの食品
妊娠中は赤ちゃんの成長のためにも、栄養バランスの良い食事が欠かせません。美肌のためにも、以下の食品を積極的に取り入れましょう。
気血を補う食品

• 黒豆:血を補い、肌に栄養を届けます。黒豆茶やスープで取り入れやすいです。
• 赤身の肉(豚肉・鶏肉):良質なタンパク質と鉄分が豊富で、血を補います。
• レバー:鉄分やビタミンAが豊富ですが、妊娠初期は過剰摂取に注意が必要です。妊娠中の耐容上限量は1日2700µgRAEで、鶏レバーなら約1かけ(30g程度)に相当します。週に1回程度の少量摂取に留めましょう。
• ほうれん草・小松菜:鉄分と葉酸が豊富で、血を補い肌の新陳代謝を促します。
• なつめ(大棗):気血を補う代表的な薬膳食材です。そのまま食べたり、お茶に入れたりできます。
陰を養う食品(潤いを与える)

• 白きくらげ:肌や肺を潤す効果があり、乾燥肌におすすめです。
• 山芋・長芋:消化を助けながら、体に潤いを与えます。
• 豆腐・豆乳:良質なタンパク質と大豆イソフラボンで肌の弾力を保ちます。
• 梨:体の熱を冷まし、潤いを与えます。
• はちみつ:肌を潤し、便秘の改善にも役立ちます。
血熱を冷ます食品

• トマト:リコピンが豊富で、抗酸化作用があり、体の熱を冷まします。
• きゅうり:体の余分な熱を取り除き、むくみの改善にも効果的です。
• 緑豆:清熱解毒の作用があり、ニキビや吹き出物に効果的です。
美肌に効果的なビタミン・ミネラル
• ビタミンC(柑橘類・キウイ・パプリカ):メラニンの生成を抑え、コラーゲンの合成を促します。
• ビタミンE(ナッツ類・アボカド):抗酸化作用があり、肌の老化を防ぎます。
• オメガ3脂肪酸(青魚・亜麻仁油):肌の炎症を抑え、保湿効果があります。
水分補給の重要性
妊娠中は赤ちゃんへの水分供給が優先されるため、母体は脱水状態になりやすくなります。1日1.5~2リットルを目安に、こまめな水分補給を心がけましょう。常温の水や麦茶、ルイボスティー(ノンカフェイン)がおすすめです。
妊娠期間中に避けた方が良い食品
美肌のためだけでなく、妊娠中の健康のためにも、以下の食品は控えめにしましょう。
糖分の多い食品
ケーキ、チョコレート、清涼飲料水などの糖分の多い食品は、血糖値の急上昇を招き、皮脂の分泌を増やしてニキビの原因となります。また、糖化による肌の老化も促進されます。
脂っこい食品
揚げ物やファストフードなどの脂っこい食品は、皮脂の分泌を増やし、毛穴の詰まりやニキビを引き起こします。
刺激物
唐辛子などの辛い食べ物は、体内に熱をこもらせ、肌の炎症を悪化させることがあります。適度な量であれば問題ありませんが、食べ過ぎには注意しましょう。
カフェイン
コーヒーや紅茶に含まれるカフェインは、体を乾燥させる作用があります。妊娠中はカフェインの摂取量を1日200mg以下に抑えることが推奨されています。
加工食品・添加物の多い食品
インスタント食品や加工食品には、塩分や添加物が多く含まれており、むくみや肌荒れの原因となります。できるだけ新鮮な食材を使った手作りの食事を心がけましょう。
生もの・水銀の多い魚
美肌には直接関係ありませんが、妊娠中は食中毒のリスクから生ものは避け、マグロなどの大型魚は水銀含有量が多いため控えめにすることが推奨されます。
妊娠期間中に美肌対策でおすすめの漢方や薬膳素材
妊娠中は使用できる漢方薬に制限がありますが、体質や症状に合わせて安全に使える漢方や薬膳素材があります。必ず専門の漢方薬局や医師に相談してから使用しましょう。
当帰(トウキ)
血を補い、血行を促進する代表的な生薬です。肌に栄養を届け、乾燥やくすみの改善に効果的です。当帰を含む「当帰芍薬散」は、妊娠中でも使用できる漢方薬の一つで、むくみや冷えの改善にも役立ちます。
阿膠(アキョウ)
ロバの皮を煮詰めて作られる生薬で、血を補い、肌に潤いを与えます。乾燥肌や貧血気味の方におすすめです。阿膠を含む「芎帰膠艾湯」は、妊娠中の出血予防や肌の乾燥対策に用いられます。
白朮(ビャクジュツ)
消化機能を整え、体内の水分代謝を改善します。むくみや消化不良からくる肌荒れに効果的です。
茯苓(ブクリョウ)
余分な水分を排出し、むくみを改善します。心を落ち着かせる作用もあり、ストレスによる肌荒れにも効果的です。
薏苡仁(ヨクイニン)
ハトムギのことで、体内の余分な水分や熱を取り除き、肌のイボやニキビに効果的です。ただし、妊娠中の使用については安全性が確立されていないため、妊娠中は使用を控えるか、必ず専門家に相談してください。
紅花(コウカ)
血行を促進し、シミやくすみの改善に効果的です。ただし、妊娠中は子宮収縮作用があるため使用を避けるべき生薬です。美肌目的での使用は産後にしましょう。
クコの実(枸杞子)
肝腎を補い、目の疲れや肌の老化を防ぎます。抗酸化作用が高く、美肌効果が期待できます。
菊花(キクカ)
目の疲れを取り、体の熱を冷まします。シミやそばかすの予防に効果的です。
薬膳茶のレシピ

美肌薬膳茶
• なつめ 3個
• クコの実 10粒
• 菊花 3輪
• 熱湯を注いで5分蒸らす
この薬膳茶は、気血を補い、目の疲れを取り、肌に潤いを与えます。毎日飲むことで、内側から美肌をサポートします。
妊娠期間中の美肌スキンケアのポイント

食事だけでなく、外側からのスキンケアも大切です。妊娠中は肌が敏感になっているため、以下のポイントに注意しましょう。
保湿を徹底する
妊娠中は肌の乾燥が進みやすいため、保湿を徹底しましょう。化粧水の後に乳液やクリームでしっかりと蓋をすることが大切です。お腹や太ももなど、妊娠線ができやすい部分には、専用のボディクリームやオイルを使って、妊娠初期からケアを始めましょう。
紫外線対策を怠らない
妊娠中はメラニンが生成されやすいため、紫外線対策が非常に重要です。日焼け止めを毎日使用し、帽子や日傘も活用しましょう。ただし、化学的な紫外線吸収剤が気になる方は、ノンケミカルタイプ(紫外線散乱剤)の日焼け止めを選ぶと良いでしょう。
低刺激のスキンケア製品を選ぶ
妊娠中は肌が敏感になっているため、無香料・無着色・低刺激のスキンケア製品を選びましょう。新しい化粧品を使う際は、パッチテストを行うと安心です。
適度な運動と質の良い睡眠
適度な運動は血行を促進し、肌の新陳代謝を高めます。ウォーキングやマタニティヨガなど、無理のない範囲で体を動かしましょう。
また、質の良い睡眠は美肌の基本です。成長ホルモンは入眠後最初の90分間の深い睡眠時に最も多く分泌されるため、就寝時刻よりも「深く質の良い睡眠」を取ることが重要です。規則正しい睡眠習慣を心がけ、毎日同じ時間に就寝・起床するようにしましょう。
ストレス管理
ストレスは肌荒れの大きな原因となります。妊娠中は体の変化や出産への不安など、ストレスを感じやすい時期です。深呼吸やアロマテラピー(妊娠中に使える精油を選ぶ)、好きな音楽を聴くなど、自分なりのリラックス方法を見つけましょう。
妊娠期別の美肌対策のポイント
妊娠期によって体の状態や必要なケアが変わります。時期に応じた対策を行いましょう。
妊娠初期(0~15週)
つわりで食事がままならない時期です。無理に食べようとせず、食べられるものを少量ずつ摂取しましょう。水分補給を忘れずに。つわりが落ち着いたら、少しずつバランスの良い食事を心がけましょう。この時期から保湿ケアと妊娠線予防を始めると効果的です。
妊娠中期(16~27週)
つわりが落ち着き、体調が安定する時期です。食欲が戻ってくるため、栄養バランスの良い食事を心がけ、美肌のための食材を積極的に取り入れましょう。お腹が大きくなり始めるため、保湿ケアを継続し、妊娠線予防をしっかり行いましょう。
妊娠後期(28週~出産)
お腹がさらに大きくなり、皮膚の乾燥やかゆみを感じやすい時期です。保湿ケアを念入りに行いましょう。むくみが出やすい時期でもあるため、塩分を控え、適度な運動を続けることが大切です。出産に向けて体力をつけるためにも、栄養バランスの良い食事を心がけましょう。
出産後の肌ケアについて
妊娠中にできたシミや妊娠線は、出産後に自然に薄くなることもありますが、適切なケアを続けることが大切です。授乳中も食事や生活習慣に気をつけ、美肌を保ちましょう。
漢方では、出産後は「気血の消耗」が大きいと考えます。授乳によってさらに気血が消耗するため、産後の回復期には気血を補う食事や漢方薬が効果的です。十全大補湯や加味帰脾湯などの漢方薬は、産後の体力回復と美肌の両方をサポートします。
妊娠中にできた肝斑は、出産後6ヶ月~1年で自然に薄くなることが多いですが、紫外線対策を怠ると色素沈着が残ることがあります。授乳中もビタミンC誘導体配合の美容液など、安全性の高いスキンケアを継続しましょう。気になる場合は、授乳終了後に皮膚科でのレーザー治療やハイドロキノン治療を検討できます。
まとめ
妊娠期間中の美肌対策は、内側からのケアと外側からのケアの両方が大切です。漢方や薬膳の考え方を取り入れ、気血を補い、体に潤いを与え、余分な熱を取り除くことで、妊娠中も健やかで美しい肌を保つことができます。
杜の都の漢方薬局・運龍堂では、妊娠中の女性一人ひとりの体質や症状に合わせた漢方薬や薬膳のアドバイスを行っています。妊娠中の肌トラブルでお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。妊娠という特別な時期を、美しく健やかに過ごすお手伝いをさせていただきます。
※妊娠中の漢方薬や薬膳の使用については、必ず専門の漢方薬局や医師に相談してから行ってください。