排卵障害
はじめに
排卵障害は、不妊の大きな原因の一つであり、ホルモンバランスの乱れやストレス、生活習慣の影響を受けやすい症状です。排卵が正常に行われないと、妊娠しにくくなるだけでなく、生理不順や体調不良の原因にもなります。
排卵障害の原因は多岐にわたりますが、適切な生活習慣の改善や漢方薬の使用 によって、改善が期待できるケースも多いです。本記事では、排卵障害の原因とその対策、さらに漢方薬や生薬を使った改善方法 について詳しく解説します。
排卵障害の原因
ホルモンバランスの乱れ
排卵は、脳(視床下部・下垂体)と卵巣 の連携によってコントロールされています。
このバランスが崩れると、排卵が正常に行われなくなります。特に影響を受けるホルモンとして、以下のものが挙げられます。
※ FSH(卵胞刺激ホルモン):卵巣を刺激し、卵胞を成長させるホルモン。分泌不足で卵胞が育たない。
※ LH(黄体形成ホルモン):排卵を引き起こすホルモン。分泌の異常で排卵がうまく起こらない。
※ エストロゲン(卵胞ホルモン):子宮内膜を厚くする。低下すると排卵しにくくなる。
※ プロゲステロン(黄体ホルモン):排卵後に分泌される。排卵がないと不足し、生理不順の原因になる。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
PCOSは、排卵障害の大きな原因の一つです。
※ 卵胞は発育するが、排卵せずに卵巣内にとどまる
※ 血中の男性ホルモン(テストステロン) の値が高くなりやすい
※ 月経不順や無排卵月経、不妊の原因になる
過度なダイエットや栄養不足
急激な体重減少や低栄養は、脳に「飢餓状態」と認識され、排卵をストップ させる原因になります。
※ 体脂肪率が低すぎると、エストロゲン が不足し排卵が止まる
※ 鉄分・亜鉛・ビタミンD の不足が排卵を妨げる
ストレスや自律神経の乱れ
※ 強いストレスは、視床下部の機能を低下 させ、ホルモン分泌を妨げる
※ 自律神経が乱れると、卵巣の働きが鈍り、排卵しにくくなる
冷えや血行不良
※ 体が冷えると、卵巣への血流が悪くなり、ホルモン分泌が低下
※ 冷え性の人は、無排卵や生理不順が起こりやすい
甲状腺の異常
※ 甲状腺ホルモンは、排卵に関わるホルモンのバランスを調整する 重要な働きを持つ
※ 甲状腺機能が低下すると、排卵障害や無月経の原因になる
漢方薬・生薬による対策
排卵障害の原因に合わせて、適切な漢方を選ぶことで改善が期待できます。
① 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
※排卵障害への作用
- 血流を改善し、卵巣機能を向上させる
- 冷え性を改善し、ホルモン分泌を正常化する
- 生理不順・貧血・むくみを改善し、排卵を促す
※作用メカニズム
当帰芍薬散は、「血虚(けっきょ)+水滞(すいたい)」のタイプに使われます。血虚とは血の不足、水滞とは 水分代謝の悪化を指します。
- 当帰(とうき):血を補い、子宮・卵巣の血流を改善
- 芍薬(しゃくやく):筋肉の緊張をほぐし、血流をスムーズにする
- 川芎(せんきゅう):血行を促進し、瘀血(おけつ=血の滞り)を改善
- 茯苓(ぶくりょう)・白朮(びゃくじゅつ)
- 沢瀉(たくしゃ):体の余分な水分を排出し、むくみを改善
※血流を良くすることで、卵巣の働きを活性化し、排卵を促す
※冷え性を改善し、ホルモンバランスを整える
②桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
※排卵障害への作用
- 瘀血(血の滞り)を解消し、卵巣機能を改善
- 血行を促進し、排卵のスムーズな進行を助ける
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)による排卵障害にも有効
※作用メカニズム
桂枝茯苓丸は、「瘀血(おけつ)=血流の滞り」を改善する漢方です。
- 桂枝(けいし):血行を促進し、体を温める
- 牡丹皮(ぼたんぴ)
- 桃仁(とうにん):瘀血を取り除き、血の巡りを良くする
- 茯苓(ぶくりょう)
- 芍薬(しゃくやく):水分代謝を整え、筋肉の緊張を緩和
※血の滞りを改善し、卵巣の血流を良くすることで排卵をスムーズにする
※多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や冷えが原因の排卵障害に有効
③ 霊鹿参(れいろくさん)
※排卵障害への作用
- ホルモンバランスを整え、排卵を促す
- 黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌を助け、高温期を維持
- 卵巣機能を高め、妊娠しやすい体をつくる
※作用メカニズム
霊鹿参には、鹿茸(ろくじょう・シカの角) が含まれており、これがホルモンバランスに強く影響を与えます。
- 鹿茸(ろくじょう):卵巣を活性化し、エストロゲン・プロゲステロンの分泌を促す
- 人参(にんじん):体力を補い、ホルモン分泌を正常化
※ホルモンの分泌を助けることで、排卵を促進
※高温期が短い・黄体ホルモンが不足している場合に有効
※妊娠しやすい体質へと導く
④ 麝香(じゃこう)
※排卵障害への作用
- ストレスによる排卵障害を改善
- 自律神経を整え、ホルモン分泌を正常化
- 脳(視床下部・下垂体)に働きかけ、排卵リズムを安定させる
※作用メカニズム
麝香は、ジャコウジカの香嚢(こうのう)から得られる生薬で、自律神経を整える作用が非常に強い のが特徴です。
- 強心作用:血流を改善し、卵巣への血液供給を増やす
- 鎮静作用:ストレスを和らげ、自律神経を安定させる
- 内分泌調整作用:ホルモンバランスを整え、排卵を促す
※ストレスが原因で排卵しにくい人に効果的
※高温期が不安定な場合にも有効
※緊張やストレスが強い人におすすめ
排卵障害改善のための生活習慣のポイント
排卵障害を改善するためには、漢方薬や生薬を活用するだけでなく、日常生活の見直しも重要 です。ホルモンバランスを整え、卵巣機能を正常に保つために、規則正しい生活リズム・栄養バランスの取れた食事・適度な運動・ストレス管理・冷え対策 を意識することが必要です。
ここでは、それぞれの項目について詳しく説明します。
① 規則正しい生活リズム(睡眠をしっかりとる)
なぜ睡眠が重要なのか?
睡眠は、ホルモンバランスを整えるために不可欠です。排卵に関係するエストロゲン・プロゲステロン・FSH・LH などのホルモンは、夜の間に分泌 されます。睡眠不足になると、ホルモンの分泌が乱れ、排卵がスムーズに行われなくなる可能性があります。
良質な睡眠のためのポイント
※ 22時〜2時の間に睡眠をとる(この時間帯は「ゴールデンタイム」と呼ばれ、ホルモン分泌が活発になる)
※ 寝る前のスマホやパソコンの使用を控える(ブルーライトがメラトニンの分泌を妨げる)
※ カフェインの摂取を控えめにする(午後以降のコーヒーや緑茶は避ける)
※ ぬるめのお風呂(38~40℃)に浸かる(リラックスして副交感神経を優位にする)
② バランスの良い食事(鉄分・ビタミンD・亜鉛を意識)
排卵をスムーズにする栄養素と食材
※ 鉄分(卵巣機能を正常に保つ)
→ レバー、赤身の肉、ほうれん草、小松菜、ひじき、貝類(あさり・しじみ)
※ ビタミンD(ホルモンバランスを整える)
→ 鮭、サバ、キノコ類(しいたけ・舞茸)、卵黄、日光浴(1日15分程度)
※ 亜鉛(卵子の成長を助ける)
→ 牡蠣、牛肉、大豆、ナッツ類(アーモンド・カシューナッツ)
※ オメガ3脂肪酸(ホルモンの材料になる)
→ 青魚(サバ・イワシ・サンマ)、えごま油、亜麻仁油、クルミ
避けるべき食べ物
加工食品(添加物やトランス脂肪酸が多い)
❌ 白砂糖(血糖値を急上昇させ、ホルモンバランスを乱す)
❌ カフェインやアルコール(排卵を妨げる可能性がある)
③ 適度な運動(血流を促進し、ホルモン分泌を正常化)
運動が排卵に与える影響
適度な運動は、血流を良くし、卵巣の働きを活性化 させます。また、ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌を抑え、自律神経を整える効果もあります。
おすすめの運動
※ ウォーキング(1日30分)
→ 血流を改善し、ホルモンバランスを整える
※ ヨガ・ストレッチ
→ 自律神経を整え、リラックス効果を高める
※ スクワットや骨盤体操
→ 骨盤内の血流を促し、卵巣の働きを活性化
運動で気をつけること
❌ 過度な運動(激しい筋トレやマラソンなど) は逆効果!
→ ストレスホルモンが増加し、排卵が抑制される可能性あり
④ ストレス管理(瞑想・ヨガなどを取り入れる)
なぜストレスが排卵に影響するのか?
強いストレスを受けると、脳の視床下部が影響を受け、排卵をコントロールするホルモン(FSH・LH)の分泌が乱れます。
ストレスを和らげる方法
※ 深呼吸・瞑想(1日5分でも効果あり)
※ 好きな音楽を聴く・アロマを活用する(ラベンダー・カモミールがおすすめ)
※ ヨガや軽いストレッチ(心身をリラックスさせる効果)
※ 友人や家族と楽しく会話する(孤独感を減らす)
ストレスに強い体を作る漢方薬
※ 加味逍遥散(かみしょうようさん):イライラ・ストレスによるホルモンバランスの乱れに
※ 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう):不安感・喉のつかえ・自律神経の乱れに
⑤ 冷え対策(温かい飲み物・入浴を習慣化)
冷えが排卵に悪影響を与える理由
冷え性の人は、血流が悪くなり、卵巣や子宮に十分な栄養が届かなくなる ことがあります。結果として、排卵障害・生理不順・生理痛の悪化 につながります。
冷え対策のポイント
※ 白湯・ショウガ湯・ハーブティーを飲む(冷たい飲み物を避ける)
※ 湯船にしっかり浸かる(シャワーだけでは体の芯が温まらない)
※ 腹巻き・靴下・レッグウォーマーを活用する(特に下半身を冷やさない)
※ 温活食材を取り入れる(ショウガ、シナモン、黒糖、にんにくなど)
冷え性改善におすすめの漢方薬
※ 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう):末端の冷え・血流改善
※ 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん):血の巡りを良くし、冷えを改善
まとめ
排卵障害は、ホルモンバランスの乱れやストレス、栄養不足などが原因となって引き起こされます。
※ 漢方薬を活用してホルモンバランスを整える
※ 霊鹿参・麝香などの生薬を併用して、排卵をスムーズにする
※ 生活習慣を整えることで、根本的な体質改善を図る
排卵障害でお悩みの方は、漢方と生活習慣の見直しを組み合わせて、自然な改善を目指しましょう!