不育症・流産予防と漢方|「授かった命を育む力」を体質から整える、東洋医学のサポート

妊娠は、本来とても繊細な営みです。一般に、妊娠全体の約15%は流産になるといわれており、そのほとんどは妊娠初期に起こります。さらに、2回以上連続して流産・死産を繰り返す「不育症」は、妊娠を経験するカップルの25%にみられる、決して稀ではない症状です。

原因はさまざまですが、検査を行っても明確な原因が特定できないケースが約半数を占めるといわれており、ご夫婦の心身に大きな負担となります。漢方は、検査や治療と並行して「妊娠を育む力=胎元(たいげん)を養う力」を高めるサポートとして、古くから用いられてきました。本コラムでは、不育症・流産予防の考え方と漢方の役割について、運龍堂の視点から解説します。

不育症・反復流産が起こる理由

西洋医学的な観点から

不育症は、2回以上の流産・死産を繰り返す状態を指し、「習慣流産」「反復流産とほぼ同義で扱われます。原因として最も多いのは、受精卵そのものの染色体異常で、初期流産の約5070%を占めるといわれています。これは偶発的に起こるもので、防ぐことが難しいケースが大半です。

そのほか、血液が固まりやすくなる「抗リン脂質抗体症候群」、子宮の形に異常がある「子宮形態異常(中隔子宮・双角子宮など)」、ホルモンバランスの乱れによる「黄体機能不全(おうたいきのうふぜん)」や甲状腺機能異常、プロテインS欠乏症などの「凝固異常」が挙げられます。

さらに、年齢が上がるにつれて卵子の染色体異常の頻度が増えるため、年齢因子も大きな要素となります。一方で、検査をしても原因が特定できない「原因不明不育症」が約半数を占めるのが現状です。


東洋医学(漢方)の観点から

東洋医学では、不育症や反復流産の背景に「腎虚(じんきょ)」「気血両虚(きけつりょうきょ)」「お血(おけつ)」「肝鬱(かんうつ)」といった体質の偏りがあると考えます。腎は生殖と発育を主る(つかさどる)臓とされ、腎の力が不足すると、妊娠を維持する土台が弱くなると考えられています。また、子宮や生殖に深く関わる「衝任二脈(しょうにんにみゃく)」が乱れると、胎児を養う環境が不安定になりやすいとされます。

胎児の元気のもととなる「胎元(たいげん)」をしっかり養い、母体側の気血を整えることを「保胎(ほたい)」「安胎(あんたい)」と呼び、漢方ではこの考え方を軸に、体質に応じたサポートを行います。あくまで西洋医学的な検査・治療を補完する位置づけであり、漢方単独で流産を予防できるという考え方ではない点が重要です。

主な症状・経過

流産の症状として代表的なのは、妊娠初期の少量〜中等量の性器出血と、下腹部の痛みや張り感です。流産歴を繰り返している方は、妊娠判明とともに強い不安を抱えやすく、わずかな症状にも敏感になりがちです。

一方で、痛みや出血などの自覚症状がほとんどないまま胎児の発育が止まる「稽留流産(けいりゅうりゅうざん)」のように、無症状で経過するケースもあります。

さらに、妊娠判定が陽性になった直後にごく早期で流産となる「化学流産(生化学的妊娠)」を不育症の回数に含めるかどうかは、専門家の間でも議論があります。いずれにせよ、心身への負担が非常に大きいため、医療機関と継続的につながりながらケアすることが大切です。

服用可能な漢方薬・薬膳素材

● ① 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

当帰芍薬散は、当帰(とうき)・芍薬(しゃくやく)・川芎(せんきゅう)・茯苓(ぶくりょう)・白朮(びゃくじゅつ)・沢瀉(たくしゃ)から成る、婦人科で最も頻用される処方の一つです。「血虚(けっきょ)」と「水滞(すいたい)」を併せ持つ体質に用いられ、冷え・むくみ・貧血傾向のある女性に向いています。

妊娠中の安胎を目的に古くから使われており、流産予防の代表方としても知られていますが、必ず妊娠経過を診ている産婦人科医や漢方薬剤師の指導下で服用してください。自己判断での服用は避けるべき処方です。


● ② 芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)

芎帰膠艾湯は、川芎・当帰・阿膠(あきょう)・艾葉(がいよう)・甘草(かんぞう)・芍薬・地黄(じおう)から成る処方で、妊娠中の不正出血や切迫流産(せっぱくりゅうざん)の代表的な漢方薬とされてきました。

阿膠が「養血止血(ようけつしけつ)」、艾葉が温めて血を安らかにする働きを担うとされ、出血傾向のある妊娠初期のサポートに用いられます。出血を伴う場合は必ず婦人科を受診し、医師の判断のもとで併用を検討します。

● ③ 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

補中益気湯は、黄耆(おうぎ)・人参(にんじん)・白朮・当帰・陳皮(ちんぴ)・升麻(しょうま)・柴胡(さいこ)・甘草から成る処方で、「気虚(ききょ)」体質の方に用いられます。

常に疲れやすい、食欲がない、立ちくらみがある、内臓を支える力が弱いといった方に向き、東洋医学では「中気下陥(ちゅうきげかん)」と呼ばれる、子宮を支える力の不足にも応用されます。気虚タイプの習慣性流産の方に、医師・薬剤師の判断のもとで用いられることがあります。


● ④
柴苓湯(さいれいとう)

柴苓湯は、小柴胡湯(しょうさいことう)と五苓散(ごれいさん)の合方で、抗炎症作用や免疫調整作用が報告されています。

抗リン脂質抗体症候群など、自己免疫的な要因が関与する不育症に対する補助療法として研究が行われてきましたが、第一選択はあくまで西洋医学的治療(低用量アスピリン療法やヘパリン療法など)であり、漢方は補完的な位置づけです。必ず主治医と相談のうえで併用を判断します。


薬膳素材

食卓から「腎」と「気血」をやさしく補う薬膳素材も取り入れたいところです。代表的なのが、なつめ(大棗/たいそう)です。気血を補い、心を落ち着かせる働きがあるとされ、お茶やスープに加えやすい素材です。

クコの実(くこのみ)は腎と肝を補い、目の疲れにもよいとされます。黒豆(くろまめ)は腎を補う代表的な「黒い食材」で、煮豆やお茶として日常に取り入れやすい食材です。

山芋(やまいも、生薬名:山薬/さんやく)は脾と腎を同時に補い、胃腸虚弱な方にも向きます。もち米は気を補い、体を温める作用があるとされ、お赤飯やおこわなどで取り入れられます。

さらに、鶏肉や卵は良質なたんぱく質源として気血を養い、黒ごま・くるみは腎を補う食材として知られています。これらを毎日の食事に少しずつ取り入れることが、体質改善の土台となります。

注意が必要な漢方薬

妊娠中、または妊娠の可能性がある時期には、絶対に避けるべき生薬があります。代表的なものとして、麝香(じゃこう)、紅花(こうか)、桃仁(とうにん)、大黄(だいおう)、芒硝(ぼうしょう)、巴豆(はず)、附子(ぶし)などが挙げられます。これらは強い活血作用や瀉下作用、毒性を持ち、流産や早産のリスクを高めるとされてきました。

また、慎重に使用すべき生薬として、牡丹皮(ぼたんぴ)、桂皮(けいひ)、薏苡仁(よくいにん)、半夏(はんげ)などがあり、漫然と長期間使うことは避けるべきとされています。桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、通導散(つうどうさん)といった活血化お薬(かっけつかおやく)は、妊娠成立後は基本的に中止が原則です。

市販の漢方薬や民間療法、ハーブティーなどを「体によさそうだから」と自己判断で取り入れることは大変危険です。妊娠中・不育症治療中の漢方は、必ず産婦人科医や漢方薬剤師と相談のうえで選択してください。

おすすめの食品

妊娠を望む時期、そして妊娠初期には、栄養バランスを整えることが何よりも大切です。神経管閉鎖障害のリスクを下げる「葉酸」は、緑黄色野菜(ほうれん草、ブロッコリーなど)やレバー、納豆などから積極的にとりましょう(妊娠を計画する段階からのサプリ併用も推奨されています)。

貧血を防ぐ「鉄分」、胎児と母体の組織を作る「たんぱく質」、抗酸化作用のある「ビタミンE」(ナッツ・アボカドなど)、胎児の神経発達に関わる「DHAEPA」(青魚)、ポリフェノールやビタミンCなどの抗酸化食品も意識して取り入れたい食品です。

東洋医学的には、腎を補う「黒い食品」(黒豆、黒ごま、黒きくらげ、海藻、ひじき)と、気血を補う「赤い食品」(なつめ、クコの実、鶏肉、鮭、人参)を組み合わせるのがおすすめです。

冷えが気になる方は、しょうがやシナモン(少量)、もち米などの温性食材も上手に取り入れましょう。ただし、シナモンは桂皮と同じ性質を持つため、妊娠中は香りづけ程度のごく少量にとどめるのが安心です。

避けた方が良い食品・飲み物

妊娠中・妊活中に避けたい食品・飲み物として、まずアルコールが挙げられます。胎児性アルコール症候群のリスクがあり、妊娠中は完全に控えるべきです。カフェインも過剰摂取は流産リスクとの関連が指摘されており、1200mg以下(コーヒー約2杯まで)を目安にしましょう。

生肉・生ハム・加熱が不十分な肉はトキソプラズマ感染のリスクが、ナチュラルチーズや未加熱の乳製品はリステリア感染のリスクがあるため避けます。生卵や生魚(特に妊娠初期)も注意が必要です。

さらに、マグロ・キンメダイ・メカジキなどの大型魚はメチル水銀の含有量が多いため、食べる量と頻度に注意します。冷たい飲食物の摂り過ぎは体を冷やし、東洋医学的にも望ましくありません。添加物や保存料、トランス脂肪酸の多い加工食品も控えめにしましょう。

日常生活での対策

日常生活では、まず過労を避け、十分な睡眠を確保することが基本です。激しい運動や重い物を持つ動作は控え、ウォーキングやマタニティヨガなど穏やかな運動を取り入れましょう。

ストレスは自律神経やホルモンバランスを乱す要因となるため、マインドフルネスや深呼吸、軽いストレッチで心身を整える時間を意識的に作ることが大切です。お腹や腰、足首を冷やさないよう、腹巻きや靴下、ひざ掛けを活用しましょう。

反復流産を経験された方は、ご本人だけでなくパートナーも心に大きな傷を負っています。ご夫婦で気持ちを共有し、必要に応じて不育症外来や心理カウンセリングを利用することも有効です。検査の結果に基づき、低用量アスピリン療法やヘパリン療法など、医師の判断による治療が選択されることもあります。

東洋医学的には、「三陰交(さんいんこう)」「太谿(たいけい)」「関元(かんげん)」などのツボが生殖機能のサポートに用いられますが、妊娠中の鍼灸・指圧は刺激してはいけないツボもあるため、必ず妊娠管理に詳しい鍼灸師・専門家のもとで行ってください。

 

薬膳素材のご購入について

本コラムでご紹介したなつめや龍眼肉、菊花などの薬膳素材は、運龍堂オンラインショップで安心してお求めいただけます。毎日の食事やお茶に手軽に取り入れて、心と体を内側から整えていきましょう。

運龍堂オンラインショップ 商品一覧はこちら

 

まとめ

不育症や反復流産は、原因不明のケースも多く、ご夫婦にとって大きな心の負担となります。第一に大切なのは、不育症外来や産婦人科で適切な検査を受け、原因に応じた西洋医学的な治療を行うことです。漢方はその上で、母体の体質を整え、「妊娠を育む力」をやさしく支える補完的な役割を担います。

また、繰り返しの流産を経験された方ほど、心のケアが欠かせません。ご自身を責めず、信頼できる医療者と継続的につながりながら、ゆっくりと体と心を整えていきましょう。運龍堂ではオンライン診療にも対応しており、全国どこからでも漢方薬剤師に相談していただけます。

妊活・妊娠中の体質サポートについて気になることがあれば、ぜひ一度、漢方薬剤師にご相談ください。授かった命を大切に育むために、東洋医学と西洋医学、それぞれの強みを上手に活かしていきましょう。

お知らせ一覧