妊活疲れ、心が限界になる前に|不安・ストレスを和らげる漢方とセルフケア

妊活は、新しい命を迎えるための前向きな取り組みである一方、思うように結果が出ない日々のなかで、大きな不安やストレスを抱えやすい時期でもあります。ある国内外の調査では、不妊治療を受けている女性の約40パーセント前後が、軽度から中等度の抑うつや不安症状を経験すると報告されており、その心理的な負担は、がんなどの重い病気を抱える患者さんに匹敵するとも言われています。

妊娠への期待と落胆を毎月くり返すこと、周囲との比較、終わりの見えない治療への焦りは、心と体の両方を静かに疲れさせていきます。漢方は、こうした心の揺らぎを「体全体のバランスの乱れ」としてとらえ、気持ちと体調を同時に整えていくことを得意とします。本コラムでは、妊活中の不安やストレスとの向き合い方を、運龍堂の視点から解説します。


妊活中に不安・ストレスが起こりやすい理由

西洋医学的な観点から

私たちがストレスを感じると、脳の視床下部(・下垂体(かすいたい)・副腎(ふくじん)をつなぐHPA軸が活性化し、ストレスホルモンであるコルチゾールが分泌されます。短期的には体を守る働きですが、妊活中の慢性的なストレスでコルチゾールが高い状態が続くと、自律神経のうち交感神経が優位になり、心拍数や血圧の上昇、不眠などを招きます。

さらに重要なのは、HPA軸の過活動が、排卵(や月経をつかさどる性腺刺激ホルモン放出ホルモンの分泌リズムを乱すことです。その結果、排卵が遅れたり、月経周期が不安定になることがあります。実際、過度なストレス下では月経不順の頻度が高まるとされ、「妊娠したいという思い」が強いほど、かえって心身に負荷がかかるという悪循環が生じやすいのです。

東洋医学(漢方)の観点から

東洋医学では、心と体は切り離せないものと考え、感情の動きを「情志(じょうし)」と呼びます。妊活中に不安やイライラが続く状態は、多くの場合「気(き)」の巡りの乱れとしてとらえます。代表的なのが、ストレスで気の流れが停滞する肝鬱気滞(かんうつきたい)です。

気が滞ると、胸のつかえ、ため息、イライラ、月経前の不調などが現れます。また、考えすぎや過労で「心(しん)」と「脾(ひ)」が弱る心脾両虚(しんぴりょうきょ)では、不眠や動悸(どうき)、食欲不振、気分の落ち込みが目立ちます。

さらに、長引く疲れで「気」と「血(けつ)」の両方が不足する気血両虚(きけつりょうきょ)になると、全身の疲労感や顔色の悪さを伴います。漢方では、こうした「証(しょう)」を見極め、気の巡りを整え、不足を補うことで、心身全体のバランスを取り戻していきます。


妊活中の不安・ストレスに伴う主な症状

心の不調は、さまざまな形で心身に現れます。代表的なものとして、漠然とした不安感や落ち着かなさ、ささいなことで怒りっぽくなるイライラ、寝つきが悪い・途中で目が覚めるといった不眠があります。

また、胸がドキドキする動悸、気分の落ち込みややる気の低下、慢性的な疲労感もよく見られます。そのほか、頭痛、肩こり、食欲の変化、めまい、月経前の不調の悪化などを伴うこともあります。これらは「気のせい」ではなく、心と体がバランスを崩しているサインです。早めに気づき、ケアを始めることが大切です。


服用可能な漢方薬・薬膳素材

ここでは、妊活中の不安やストレスのケアに用いられることの多い代表的な漢方処方と、日々の食事に取り入れやすい薬膳素材をご紹介します。ご自身の体質や症状に合うものを選ぶことが大切ですので、服用にあたっては必ず専門家にご相談ください。

①抑肝散(よくかんさん)

柴胡、釣藤鈎(ちょうとうこう)、当帰、川芎(せんきゅう)、白朮(びゃくじゅつ)などからなり、高ぶった神経をしずめ、気の巡りを整えます。神経が高ぶってイライラしやすい、ささいなことで怒りっぽくなる、緊張で歯を食いしばる、眠りが浅いといった症状に向きます。妊活のプレッシャーで気持ちが張りつめ、いつも気が立っているような方に適したタイプです。

②半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

半夏(はんげ)、厚朴(こうぼく)、茯苓(ぶくりょう)、蘇葉(そよう)、生姜(しょうきょう)から構成されます。気の巡りを良くし、停滞によって生じた「のどのつかえ感」をやわらげます。不安や緊張で、のどに何かがつまったような感じがする、胸がふさがる、動悸や吐き気を伴うといった方に向きます。ストレスを体の上の方に感じやすい、神経質で繊細なタイプに適しています。

③酸棗仁湯(さんそうにんとう)

酸棗仁(さんそうにん)、茯苓、知母(ちも)、川芎、甘草(かんぞう)からなる処方です。心身の疲れによって弱った「心」を養い、高ぶった神経をしずめて、自然な眠りを助けます。疲れているのに頭がさえて寝つけない、考えごとで眠りが浅い、夜中に何度も目が覚めるといった不眠が気になる方に向きます。心労が重なって眠れないタイプにおすすめです。

④甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)

甘草、小麦(しょうばく)、大棗(たいそう)というわずか三種の生薬からなる、やさしい処方です。緊張をゆるめ、気持ちの高ぶりや不安をしずめる働きがあります。理由もなく悲しくなる、涙もろくなる、不安で落ち着かない、あくびが多いといった、情緒が不安定になりやすい方に向きます。心が張りつめて泣きたくなるような、デリケートなタイプに適したタイプです。


薬膳素材

日々の食事やお茶で取り入れられる薬膳素材も、心を落ち着けるセルフケアの心強い味方です。心をしずめる「安神(あんじん)」、気の巡りを良くする「理気(りき)」の働きを持つ素材を選ぶとよいでしょう。

なつめ(大棗・たいそう)は気血を補い、精神を安定させる代表的な素材で、お茶やスープ、そのままおやつとしても食べられます。蓮の実(蓮子・れんし)は心を落ち着け、眠りを助けるとされ、お粥やスープに加えるのがおすすめです。百合根(ゆりね)は心の熱をしずめて不安をやわらげるとされ、煮物や茶わん蒸しに向きます。

ジャスミン茶は気の巡りを整え、香りでリラックスを促します。ミントも気を巡らせ、気持ちをすっきりさせてくれます。龍眼肉(りゅうがんにく)は気血を補い、不眠や動悸の養生に用いられ、お茶やデザートに。菊花(きくか)は熱をさましてイライラやのぼせをしずめ、お茶として手軽に楽しめます。

注意が必要な漢方薬

妊活中は、妊娠している可能性を常に念頭に置いて漢方薬を選ぶ必要があります。とくに注意したいのが、血の巡りを強く動かしたり、お通じを強くつけたりする生薬です。大黄(だいおう)は強い瀉下(しゃげ)作用があり、子宮を収縮させる可能性があるため、妊娠の可能性がある時期は慎重に扱います。牡丹皮(ぼたんぴ)、紅花(こうか)、桃仁(とうにん)といった血を動かす「駆瘀血薬(くおけつやく)」も、妊娠初期には慎重投与または禁忌とされることがあります。

また、多くの処方に含まれる甘草(かんぞう)は、長期間・多量に連用するとむくみや血圧上昇を招く偽アルドステロン症のおそれがあり、注意が必要です。抑肝散などを他の漢方薬や西洋薬と併用する場合も、生薬の重複に気をつけなければなりません。自己判断で複数の漢方薬を組み合わせたり、長く飲み続けたりせず、必ず薬剤師や登録販売者などの専門家にご相談ください。

おすすめの食品

心を落ち着けるためには、毎日の食事で心身を整える栄養素を意識することも効果的です。栄養素の面では、まず幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの材料となるトリプトファンが大切です。大豆製品、乳製品、バナナ、ナッツ類などに多く含まれます。神経の興奮をしずめるマグネシウムは、海藻、ナッツ、緑黄色野菜、玄米などから補えます。

リラックスに関わるGABA(ギャバ)は、発芽玄米やトマト、かぼちゃなどに含まれます。エネルギー代謝や神経の働きを支えるビタミンB群は、豚肉、卵、レバー、納豆などから摂ると良いでしょう。

東洋医学の視点では、心をしずめる「安神」と、血を補う「補血(ほけつ)」の食材がおすすめです。なつめ、龍眼肉、百合根、蓮の実などの安神食材に加え、ほうれん草、黒豆、黒ごま、ぶどう、レバー、にんじんといった補血食材を組み合わせると、心の安定と体力の回復を同時に支えてくれます。バランスよく、温かい食事を心がけましょう。


避けた方が良い食品・飲み物

心と体を整えるためには、避けたい食習慣にも気を配りましょう。まず、コーヒーやエナジードリンクなどに含まれるカフェインは、交感神経を刺激して不安感や動悸、不眠を悪化させることがあるため、摂りすぎに注意が必要です。アルコールは一時的にリラックスできるように感じても、睡眠の質を下げ、自律神経を乱す原因になります。

お菓子やジュースによる過剰な糖質は、血糖値の急な上下を招き、気分の波やイライラにつながりやすいので控えめにしましょう。また、夜遅い時間の飲食は消化器に負担をかけ、睡眠を妨げます。冷たい飲み物やアイス、生野菜の摂りすぎなど、体を冷やすものも、血の巡りを悪くし、心身の不調を招きやすいため、できるだけ温かいものを選ぶことをおすすめします。


日常生活での対策

漢方や食事と合わせて、毎日の生活習慣を整えることも、心の安定にとても役立ちます。まず大切なのが睡眠衛生です。寝る前のスマートフォンを控え、毎日同じ時間に休む習慣をつけ、寝室を暗く静かに保ちましょう。ウォーキングやストレッチなどの適度な運動は、気の巡りを良くし、気分転換にもなります。

不安が強いときは、ゆっくり息を吐く腹式呼吸や、数分間の瞑想(で心を落ち着けるのも効果的です。妊活は一人で抱え込みがちですが、パートナーと気持ちを言葉にして共有する対話の時間を持つことも、心の負担を軽くしてくれます。

手軽なセルフケアとして、ツボ押しもおすすめです。手首の小指側のしわの上にある神門(しんもん)は、心を落ち着け不眠をやわらげるとされ、手首の内側にある内関(ないかん)は、動悸や不安、吐き気をしずめるとされています。気づいたときに、やさしく押してみてください。

薬膳素材のご購入について

本コラムでご紹介したなつめや龍眼肉、菊花などの薬膳素材は、運龍堂オンラインショップで安心してお求めいただけます。毎日の食事やお茶に手軽に取り入れて、心と体を内側から整えていきましょう。

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まとめ

妊活中の不安やストレスは、HPA軸や自律神経の乱れを通じて、ホルモンバランスや排卵にも影響を及ぼします。東洋医学では、これを気の巡りや気血の不足としてとらえ、加味逍遥散や抑肝散、酸棗仁湯などの漢方薬で心身全体を整えていきます。あわせて、なつめや蓮の実などの薬膳素材、心を落ち着ける食事や生活習慣、ツボ押しなどのセルフケアを取り入れることで、揺らぎやすい心を穏やかに保ちやすくなります。

ただ、何より大切なのは、つらいときに一人で抱え込まないことです。心が限界を迎える前に、どうか専門家を頼ってください。運龍堂では、お一人おひとりの体質やお悩みに合わせた漢方のご相談を承っております。オンライン診療にも対応しておりますので、遠方の方やご来店が難しい方も、どうぞお気軽にご相談ください。あなたの妊活が、心穏やかなものになるよう、心を込めてサポートいたします。