妊娠中の頭痛対策と漢方|薬に頼りすぎず体質から整える、母子にやさしいケア

妊娠中はホルモンバランスや循環血液量の変化、体型の変化など、心身に大きな変化が訪れます。その中で多くの妊婦さんが悩まされる症状のひとつが「頭痛」です。報告にもよりますが、妊婦さんの約2030%が妊娠期間中に頭痛を訴えるとされ、特に妊娠初期から中期にかけて症状が現れやすい傾向があります。

普段なら市販の鎮痛薬で対応している方も、妊娠中はお腹の赤ちゃんへの影響を考えて薬を控えたいと考える方が多く、「我慢するしかない」と一人で抱え込んでしまうケースも少なくありません。そんなとき、体質に合わせて全身を整える漢方の考え方は、妊娠中の頭痛ケアにおいて心強い選択肢のひとつとなります。今回は妊娠中の頭痛について、原因から漢方処方、生活養生まで、運龍堂の視点から解説します。

妊娠中に頭痛が起こりやすい理由

西洋医学的な観点から

妊娠中の頭痛には複数の要因が関わっています。まず大きいのがホルモンの変動です。妊娠初期にはエストロゲン(卵胞ホルモン)が急激に増加し、血管の拡張・収縮に影響を与えることで片頭痛様の症状を誘発しやすくなります。

また、妊娠中は循環血液量が妊娠前と比べて約3050%も増加し、血管にかかる負担が変化することも頭痛の一因となります。さらに、つわりによる食事量の低下からくる低血糖や脱水、姿勢の変化や乳房の重みからくる肩こり・首こり、不安や緊張による自律神経のアンバランスなども見逃せません。

なお、片頭痛持ちの方の中には、妊娠中にエストロゲンが安定することで症状が軽くなる方もいれば、初期のホルモン変動で逆に悪化する方もおり、経過には個人差が大きいのが特徴です。


東洋医学(漢方)の観点から

東洋医学では、妊娠は「血(けつ)」を大量に使う営みと考えます。赤ちゃんを育てるために母体の血が胎児へと送られるため、もともと血が不足しがちな「血虚(けっきょ)」体質の方では、脳を栄養する血が足りなくなり、ふらつきを伴うじんわりとした頭痛が起こりやすくなります。また、つわりや精神的ストレスで気の巡りが滞る「気滞(きたい)」状態になると、こめかみやはちまき様の張った頭痛が現れます。胃腸が弱く水分代謝が悪い方では「水滞(すいたい)」「痰湿(たんしつ)」が頭部に停滞し、重だるい頭痛やめまいを伴いやすくなります。

さらにイライラや不眠が重なると「肝陽上亢(かんようじょうこう)」といって肝の気が頭部に突き上げ、ズキズキとした拍動性の頭痛を生じます。これに加えて、産前産後を通じて「お血(おけつ)」と呼ばれる血の滞りも見られることがあります。

主な症状

妊娠中の頭痛の感じ方はさまざまです。ズキンズキンと脈打つような拍動性の片頭痛様の痛みが片側に出るタイプ、頭全体や後頭部が締めつけられるような緊張型の頭痛、目の奥がえぐられるように痛むタイプ、こめかみが脈打って吐き気を伴うタイプなどが見られます。

肩こりや首のこわばりを伴うこと、天気の崩れや睡眠不足、空腹で誘発されることも多く、横になっても改善しにくいときには注意が必要です。激しい頭痛、視野の異常、急な血圧上昇、むくみを伴う場合は、妊娠高血圧症候群など重大な疾患の可能性があるため、すぐに産婦人科を受診してください。

服用可能な漢方薬・薬膳素材

妊娠中でも比較的安心して使えるとされる漢方処方をいくつかご紹介します。ただし、いずれも自己判断ではなく、必ず産婦人科の主治医や漢方薬剤師と相談したうえで服用してください。

● ① 呉茱萸湯(ごしゅゆとう)

呉茱萸(ごしゅゆ)・人参(にんじん)・大棗(たいそう)・生姜(しょうきょう)から構成される処方で、冷えを伴う反復性の頭痛、片頭痛様の発作、嘔吐を伴うような強い頭痛に古くから用いられてきました。手足が冷えやすく、頭痛発作時に吐き気をもよおすタイプ、温めると少し楽になるタイプの方によく合います。妊娠中の方にも比較的選択しやすい処方の一つですが、強い苦味があるため体質との相性をよく確認することが大切です。

● ② 釣藤散(ちょうとうさん)

釣藤鈎(ちょうとうこう)・菊花(きくか)・防風(ぼうふう)・人参・甘草(かんぞう)・茯苓(ぶくりょう)・陳皮(ちんぴ)・麦門冬(ばくもんどう)・半夏(はんげ)・石膏(せっこう)・生姜の11種からなる処方で、朝方に強くなる頭痛、肩こりや高血圧傾向、めまい、のぼせを伴うタイプに適しています。東洋医学でいう「肝陽上亢(かんようじょうこう)」のパターンに該当し、ストレスで頭にカッと血がのぼるような頭痛をやわらげます。妊娠中の血圧の変動や、肩こり由来の頭痛にも穏やかに働きます。

● ③ 半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)

半夏・白朮(びゃくじゅつ)・天麻(てんま)・茯苓・陳皮・人参・黄耆(おうぎ)・沢瀉(たくしゃ)・麦芽(ばくが)・神麹(しんきく)・乾姜(かんきょう)・黄柏(おうばく)などから構成され、胃腸虚弱で食欲が落ちやすく、ぐるぐる回るようなめまいを伴う重だるい頭痛に用いられます。妊娠中の「痰湿(たんしつ)」「水滞」タイプの頭痛、つわりが落ち着いても胃腸の弱さが残っているような方に適した処方です。

● ④ 桂枝人参湯(けいしにんじんとう)

桂枝(けいし)・人参・白朮・乾姜・甘草の5種からなる処方で、胃腸虚弱で冷えやすく、おなかが張りやすい方の緊張型頭痛、後頭部のこわばりを伴う頭痛に用いられます。手足が冷たく、温かい飲み物を好み、疲れると頭痛が出やすいタイプの妊婦さんに向いています。胃腸を温めながら緊張をほぐすことで、肩首のこわばりからくる頭痛にもアプローチします。

● ⑤ 五苓散(ごれいさん)

沢瀉・猪苓(ちょれい)・茯苓・白朮・桂皮(けいひ)の5種からなる処方で、体内の水分の偏りを整える代表的な処方です。天気が崩れる前や雨の日に悪化する頭痛、むくみやめまい、つわり様の悪心、口の渇きの割に尿量が少ない方によく合います。気圧の影響を受けやすい妊婦さんの頭痛ケアにも頼れる処方です。


薬膳素材

日々の食事から体を整えるのも妊娠中の頭痛対策には大切です。なつめ(大棗・たいそう)は気と血を補い、貧血気味の方や疲れやすい方の血虚タイプの頭痛におすすめです。生姜(しょうが)は体を温めて気の巡りを促し、冷え由来の頭痛や吐き気のあるときに役立ちます。

菊花(きくか)は熱を冷まし頭部の余分な熱をしずめる作用があり、お茶として少量取り入れると目の疲れや軽い頭痛をやわらげます。葛(くず)は首肩のこわばりをゆるめる食材で、葛湯として温かくいただくと緊張型頭痛のケアに向きます。緑茶はカフェインを含むため大量摂取は避けつつ、少量を温かく飲むことで頭の重さをすっきりさせる助けになります。

黒豆(くろまめ)は腎を補い、産前産後の体力維持に。はと麦(はとむぎ)は水分代謝を整え、むくみや重だるい頭痛のあるときに適しています。いずれも一度に大量に摂るのではなく、毎日の食卓に少しずつ取り入れるのがコツです。

注意が必要な漢方薬

妊娠中は「漢方だから安心」と一律に考えず、避けるべき生薬・処方をきちんと知っておくことが大切です。風邪薬として有名な葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)に含まれる麻黄(まおう)はエフェドリンを含み、子宮収縮や血圧上昇を招く懸念があるため妊娠中の頻用は避けます。

桃仁(とうにん)・牡丹皮(ぼたんぴ)・紅花(こうか)といった活血薬は血の巡りを強く動かすため流産誘発のリスクが指摘されており、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)など含有処方の使用には慎重な判断が必要です。大黄(だいおう)は強い瀉下(しゃげ)作用を持ち、腸の蠕動が子宮収縮を促す可能性があるため避けるのが原則です。

麝香(じゃこう)は妊娠中禁忌とされる代表的な生薬で、含有する救急薬の使用も控えます。また西洋薬では、ロキソプロフェンやイブプロフェンなどのNSAIDsは妊娠後期(特に28週以降)の使用が原則禁忌とされ、胎児の動脈管早期閉鎖などのリスクがあります。アセトアミノフェンは比較的安全とされていますが、頻用や長期使用は避け、必ず医師の指示に従ってください。


おすすめの食品

頭痛の予防や緩和に役立つ栄養素を、日々の食事から取り入れていきましょう。まず注目したいのがマグネシウムです。豆類、ナッツ類、海藻類、玄米などに豊富で、血管の収縮拡張を整え緊張をやわらげる働きがあります。ビタミンB2は卵、乳製品、レバー、納豆などに含まれ、片頭痛予防に関する研究報告もある栄養素です。

鉄分は赤身の肉、レバー、ほうれん草、小松菜、あさりなどから補い、妊娠中の貧血予防と血虚(けっきょ)対策に欠かせません。東洋医学的には、しょうがやねぎ、シナモン(桂皮)など体を温める食材で気血の巡りを助け、なつめやくるみ、黒ごま、山芋など補血・補腎の食材を組み合わせることで、母体の根本的な体力を底上げできます。良質なたんぱく質や旬の野菜をバランスよく、温かい料理を中心に、よく噛んでいただくことを心がけましょう。

避けた方が良い食品・飲み物

一方で、頭痛を悪化させやすい食品・飲み物は控えめにしたいところです。コーヒーや紅茶、エナジードリンクなどのカフェインは血管を収縮させ、過剰摂取後に反動で拡張することで頭痛を誘発することがあります。妊婦さんの目安は1200mg未満(コーヒー約2杯弱)とされており、デカフェやノンカフェイン茶の活用がおすすめです。

チラミンを多く含む熟成チーズ、チョコレートの過剰摂取、加工肉なども片頭痛の引き金になることがあります。ワインなどアルコール類は妊娠中は厳禁です。加工食品や添加物の多い食事は気血の質を落としますので、できるだけ手作りの和食を意識しましょう。

また、冷たい飲み物・食べ物は胃腸を冷やし水滞を悪化させるため避け、長時間の空腹(低血糖)を作らないよう、こまめに少量ずつ食べる工夫も大切です。

日常生活での対策

毎日の暮らしの中で頭痛を遠ざける工夫もたくさんあります。まずは規則正しい睡眠リズムを整え、寝不足・寝すぎのどちらも避けましょう。お腹が大きくなると姿勢が崩れやすくなるので、シムスの体位など楽な姿勢を見つけ、長時間同じ姿勢を続けないことも大切です。

ホットタオルや蒸気の出るアイマスクで首・肩・目元を温めると、緊張型の頭痛がやわらぎます。

ツボ刺激も穏やかな選択肢で、こめかみの「太陽(たいよう)」、首の後ろ髪の生え際の「天柱(てんちゅう)」を、深呼吸しながら指の腹でやさしく押すと頭がすっきりします(強い刺激は避けましょう)。

体調が良ければ12030分の軽いウォーキングで血流を促し、寝室は照明を落としアロマや音楽でリラックス環境を整えるのもおすすめです。「いつ・どんなときに・どの程度の頭痛が出たか」を記録する頭痛日記をつけると、ご自身の誘因が見えてきて対策につながります。

薬膳素材のご購入について

本コラムでご紹介したなつめや龍眼肉、菊花などの薬膳素材は、運龍堂オンラインショップで安心してお求めいただけます。毎日の食事やお茶に手軽に取り入れて、心と体を内側から整えていきましょう。

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まとめ

妊娠中の頭痛は、ホルモンの変動・循環血液量の増加・血虚や水滞といった体質の偏り・肩こりや自律神経の乱れなど、さまざまな要因が重なって起こります。西洋薬の選択肢が限られる中で、漢方は体質に合わせて全身を整える方法として、妊娠中の頭痛ケアの心強い味方になります。

今回ご紹介した呉茱萸湯(ごしゅゆとう)・釣藤散(ちょうとうさん)・半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)・桂枝人参湯(けいしにんじんとう)・五苓散(ごれいさん)はあくまで代表的な処方であり、お一人おひとりの体質や妊娠週数、合併症の有無によって最適な選択は変わります。必ず自己判断は避け、産婦人科の主治医と漢方専門の薬剤師に相談のうえで服用してください。

運龍堂では、妊娠中の方からのご相談にも丁寧に対応し、オンライン診療・オンライン相談にも対応しております。「薬は不安だけれど、つらい頭痛をなんとかしたい」というときには、安心してご相談いただける体制を整えておりますので、どうぞお気軽にお声がけください。母子ともに健やかな妊娠期間を過ごせるよう、運龍堂が漢方の知恵で寄り添います。