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基礎体温がガタガタ・高温期が短い方へ|妊活の土台を整える漢方と養生
はじめに
妊活に取り組むなかで、毎朝きちんと基礎体温をつけているのに、グラフがギザギザに乱れてしまう、低温期がなかなか終わらない、高温期が十日ほどで下がってしまう。そうしたお悩みを抱えて運龍堂にご相談にいらっしゃる方は、決して少なくありません。国の調査では、不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は約4.4組に1組とされており、妊活は今や多くのご夫婦にとって身近なテーマになっています。
一般に高温期は12〜14日ほど続くのが一つの目安とされますが、そこに届かない周期が重なると、不安な気持ちも大きくなっていきます。東洋医学では、体温の数字そのものを追いかけるのではなく、体を温める力、栄養を届ける力、めぐらせる力といった「土台」に目を向けます。ここでは、基礎体温が乱れやすくなる背景と、毎日の養生でできることを、運龍堂の視点から解説します。

基礎体温が乱れやすい理由
●西洋医学的な観点から
基礎体温は、卵巣から分泌される二つの女性ホルモンのリズムを映し出したものです。排卵前の低温期はエストロゲン(卵胞ホルモン)が中心となり、排卵後の高温期はプロゲステロン(黄体ホルモン)が体温を引き上げる働きをします。整った周期では、低温期と高温期の温度差はおよそ0.3〜0.5℃あり、高温期は12〜14日ほど維持されるのが一つの目安とされています。高温期が10日以内で終わってしまう、温度差が0.3℃に届かない、といった状態が続く場合には、排卵後にできる黄体の働きが十分でない黄体機能不全が考えられます。

またホルモンの指令を出しているのは脳の視床下部と下垂体で、強いストレスや睡眠不足、急激な体重の増減があると、この指令が乱れやすくなります。甲状腺の働きの低下も、体温や月経周期に影響することが知られています。体脂肪率が17〜18%を下回るような過度なダイエットや、睡眠時間が1日6時間を切る生活も、排卵のリズムを乱す一因になります。加えて、起床時刻がまちまちであったり、舌の下での測り方が安定していなかったりすると、実際以上にグラフが乱れて見えることもあります。

●東洋医学(漢方)の観点から
東洋医学では、基礎体温の乱れを、体の土台となる力の不足や、めぐりの滞りとしてとらえます。まず腎虚(じんきょ)は、生命力や生殖の力を蓄える「腎」の働きが弱った状態です。体を温める力が足りず、低温期が長引いたり、高温期が上がりきらなかったりしやすくなります。
次に気虚(ききょ)は、体を動かすエネルギーである「気」が不足した状態で、疲れやすく、食が細く、体温を持ち上げる力そのものが弱まります。血虚(けっきょ)は、全身をうるおして栄養を届ける「血(けつ)」が足りない状態です。子宮の内膜を育てる材料が不足しやすく、月経量が少ない、めまいや立ちくらみがある、といった形で現れます。
そして瘀血(おけつ)は、血のめぐりが滞った状態を指します。骨盤の中の流れが悪くなると、卵巣や子宮に十分な温かさと栄養が届きにくくなります。これらは一つだけで現れるとは限らず、重なって現れることが多いため、今のご自身にとってどれが中心になっているのかを見極めることが、漢方を選ぶうえでの出発点になります。

主な症状
グラフの形としては、低温期が18日以上と長く続く、高温期が10日に満たずに終わる、高温期の途中で一度大きく落ち込む、低温期と高温期の境目がはっきりしない、そもそも二相に分かれていない、といった特徴がみられます。体の感覚としては、手足や下腹部・腰まわりの冷え、疲れやすさ、朝すっきり起きられない、めまいや立ちくらみ、月経前のイライラや胸の張り、月経痛、経血に塊が混じる、月経量が少ない、周期が25日より短い、あるいは38日より長いといったサインが重なりやすくなります。こうした変化は、体からの「土台を整えてほしい」という合図と考えられます。

服用可能な漢方薬・薬膳素材
●①当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
当帰(とうき)・芍薬(しゃくやく)・川芎(せんきゅう)という血を補ってめぐらせる生薬に、茯苓(ぶくりょう)・白朮(びゃくじゅつ)・沢瀉(たくしゃ)という余分な水分をさばく生薬を組み合わせた処方です。血を養いながら体の水はけを整えることで、下半身の冷えやむくみをやわらげ、めぐりを助けるとされています。色白でやせ型、冷えを感じやすく疲れやすい、夕方に足がむくむ、めまいや立ちくらみがある、月経量が少なめ、といった方に用いられることが多い処方です。血が足りず、めぐりも滞りがちで、低温期が長引きやすいタイプの方に向いています。

●②六君子湯(りっくんしとう)
人参(にんじん)・白朮・茯苓・甘草(かんぞう)という胃腸を助ける生薬に、陳皮(ちんぴ)・半夏(はんげ)を加え、生姜(しょうきょう)・大棗(たいそう)を配した処方です。食べたものをエネルギーに変える力を助け、胃のもたれや食欲の低下をやわらげるとされています。食が細い、食後に胃が重くなる、少し食べるとお腹が張る、疲れやすくて気力がわかない、といった方に用いられます。妊活においては、体温を持ち上げるための材料そのものが不足しがちな方の、いちばん土台の部分を整える一手として選ばれることの多い処方です。
●③十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
当帰・芍薬・川芎・地黄(じおう)という血を補う四つの生薬と、人参・白朮・茯苓・甘草というエネルギーを補う四つの生薬に、黄耆(おうぎ)・桂皮(けいひ)を加えた十種類からなる処方です。不足しているエネルギーと血を同時に補いながら、体を内側から温めていく点が特徴とされています。長く疲れが抜けない、顔色がすぐれない、手足が冷える、病後や産後で体力が落ちている、高温期が短く体温が上がりきらない、といった方に用いられます。低温期・高温期ともに全体的に体温が低めに推移する方の候補になります。

●④柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
柴胡(さいこ)・黄芩(おうごん)・栝楼根(かろこん)・桂皮・乾姜(かんきょう)・牡蛎(ぼれい)・甘草からなる処方です。高ぶった神経をしずめる生薬と、お腹を内側から温める生薬とが組み合わされているのが特徴で、緊張が強いのに体は冷えている、という状態に用いられます。考えごとが多くて眠りが浅い、動悸がする、寝汗をかく、口やのどが渇く、下半身は冷えるのに顔だけのぼせる、といった方に。仕事や人間関係のストレスが重なると基礎体温がギザギザに乱れやすい、という方に向く処方です。
●⑤六味丸(ろくみがん)
地黄・山茱萸(さんしゅゆ)・山薬(さんやく)・沢瀉・茯苓・牡丹皮(ぼたんぴ)の六種類からなる処方です。体のうるおいを補う生薬を中心に構成されており、下半身の土台を支え、消耗しやすい方の回復を助けるとされています。手のひらや足の裏がほてる、のどが渇く、寝汗をかく、腰やひざがだるい、疲れると目がかすむ、といった方に用いられます。うるおいが足りないために低温期の体温が高めに出てしまう方や、年齢とともに疲れの抜けにくさを感じている方の候補となります。

●薬膳素材
棗(なつめ)は、胃腸をいたわりながら気持ちを落ち着かせ、血を養うとされる素材です。乾燥したものを二、三個、スープやお粥に入れて煮込むと、自然な甘みが出て食べやすくなります。龍眼肉(りゅうがんにく)は、ライチに似た果実を乾かしたもので、血を補い、眠りの浅さや不安感が気になる方に親しまれてきました。そのまま数粒つまむほか、なつめと一緒に煮出しても向いています。
枸杞の実(くこのみ)は、血とうるおいを養い、目の疲れが気になる方に。ヨーグルトやサラダに散らすだけで手軽に取り入れられます。松の実(まつのみ)は、体をうるおしよい油を含む素材で、軽く炒って和え物やスープに加えます。蒸し生姜(乾姜・かんきょう)は、生の生姜を蒸してから乾かしたもので、生よりも内側からじんわり温める性質が強まるとされ、白湯や紅茶にひとつまみ加えるのがおすすめです。杜仲(とちゅう)茶は、腰やひざのだるさが気になる方に選ばれてきたお茶で、カフェインを含まないため夜でも飲みやすいのが利点です。
はとむぎ(薏苡仁・よくいにん)は、余分な水分をさばく働きが知られ、むくみやすい方に。ごはんに混ぜて炊いたり、お茶として飲んだりできます。これらを一度に全部そろえる必要はありません。まずは二、三種類を、毎日続けられる形で取り入れてみてください。
また運龍堂では、鹿茸(ろくじょう)とスクアレンもお取り扱いしています。鹿茸は古くから体の土台を支える貴重な素材として用いられてきたもの、スクアレンは深海鮫の肝油に由来する成分です。いずれも、体質やお使いの状況によって向き不向きがありますので、薬剤師がお話をうかがったうえでご案内しています。ご興味のある方は、店頭またはご相談の際にお声がけください。

注意が必要な漢方薬
妊活中は、妊娠の可能性がある時期をまたぐことになるため、生薬の選び方にも配慮が必要です。大黄(だいおう)やセンナといった、お通じを強く促す生薬は、子宮を刺激することがあるとされ、慎重に扱われます。麝香(じゃこう)も、めぐりを強く動かす性質から、妊娠の可能性がある時期には避けるべき生薬とされています。
牡丹皮、紅花(こうか)、桃仁(とうにん)など、血のめぐりを強く動かす生薬も同様で、周期のどの時期に用いるかを含めた判断が欠かせません。また、多くの処方に含まれる甘草は、長期にわたって多く摂り続けると、むくみや血圧の上昇、体のだるさなどを伴う偽アルドステロン症を起こすことがあります。複数の漢方薬を自己判断で重ねると、甘草の量が知らないうちに増えてしまう点に注意してください。
麻黄(まおう)は動悸や不眠、附子(ぶし)は体質に合わないとのぼせや動悸を招くことがあり、いずれも専門家の管理のもとで用いる生薬です。婦人科での治療を受けている方は、その内容も含めてご相談ください。
おすすめの食品
まず意識したいのが鉄です。月経のある女性は不足しやすく、赤身の牛肉、レバー、かつお、まぐろ、あさりなど動物性の食品に含まれる鉄は吸収されやすいとされています。小松菜やひじきなど植物性の鉄は、ビタミンCを含む野菜や果物と一緒にとると吸収を助けられます。次にたんぱく質です。卵、鶏肉、魚、大豆製品などを毎食こぶし一つ分ほど、体重1キログラムあたり1グラムを目安に確保すると、ホルモンや血をつくる材料が整いやすくなります。ビタミンEはアーモンドなどのナッツ類、アボカド、かぼちゃ、植物油に多く、血のめぐりを支える栄養素として知られています。亜鉛は牡蠣、牛肉、卵黄、ごまなどに多く、細胞の入れかわりに関わります。葉酸は緑黄色野菜、納豆、いちごなどに含まれ、妊活中から意識してとりたい栄養素です。東洋医学の視点では、体を温める食品として、蒸した生姜、シナモン、ねぎ、にら、羊肉、えび、かぼちゃ、栗などが挙げられます。血を補う食品としては、黒豆、黒ごま、黒きくらげ、ひじきといった黒い色の食品や、鶏肉、いわし、ぶどうなどがすすめられてきました。冷たいままではなく、汁物や煮物として温かい状態でいただくと、胃腸への負担も軽くなります。
避けた方が良い食品・飲み物
食事とともにとる濃い緑茶や紅茶、コーヒーに含まれるタンニンは、鉄の吸収を妨げることが知られています。鉄を意識した食事のときは、食事中や食後すぐの飲用を控え、一時間ほど間をあけるとよいでしょう。カフェインそのものも、とりすぎると眠りが浅くなり、体温のリズムを乱す一因になります。コーヒーであれば一日二杯程度までを目安にし、午後は控えめにするのがおすすめです。
氷入りの飲み物やアイスクリーム、生野菜ばかりのサラダなど、体を冷やすものが続くと、胃腸の働きが落ちて温める力も弱まります。また、極端な糖質制限は、ホルモンの指令に必要なエネルギーが不足し、月経のリズムを乱す一因になりかねません。甘いものや揚げ物の食べすぎ、アルコールの飲みすぎも、体のめぐりを重くします。厳しく我慢するよりも、温かいものを選ぶ回数を少しずつ増やしていく、という考え方で十分です。
日常生活での対策
まず優先していただきたいのが睡眠です。夜11時から翌2時ごろまでは、体を修復する時間と考えられており、日付が変わる前に休む習慣をつけたいところです。目安として一日7時間前後を確保し、就寝前1時間はスマートフォンの明るい画面から離れると、寝つきが変わってきます。
運動は、息が弾む程度のウォーキングを一日20〜30分ほど、週に3〜4回続けるくらいがちょうどよく、激しすぎる運動はかえって周期を乱すことがあります。保温は、上半身よりも下半身を優先してください。腹巻き、レッグウォーマー、靴下の重ねばきに加えて、38〜40℃のお湯に15分ほど浸かる入浴は、その日の緊張をほどくのにも役立ちます。ストレスとのつき合い方も大切で、深い呼吸を数分繰り返す、基礎体温は毎日一喜一憂せず一か月単位で眺める、といった工夫が心をらくにしてくれます。
ツボでは、内くるぶしの中心から指四本分上にある三陰交(さんいんこう)、おへそから指三本分下にある関元(かんげん)を、指の腹でじんわり押したり、温めたりするのがおすすめです。

まとめ
基礎体温の乱れは、それ自体が病気というよりも、体の土台がやや不足しているというサインです。西洋医学では黄体の働きやホルモンの指令、甲状腺、生活習慣といった観点から、東洋医学では腎虚・気虚・血虚・瘀血といった見方から、その背景を読み解いていきます。漢方では、血を養ってめぐらせる当帰芍薬散、胃腸から立て直す六君子湯、エネルギーと血をあわせて補う十全大補湯、緊張をしずめながらお腹を温める柴胡桂枝乾姜湯、うるおいを補って下半身の土台を支える六味丸などが、体質に応じて用いられます。
あわせて、なつめや龍眼肉、枸杞の実、蒸し生姜といった薬膳素材、そして睡眠と保温を中心にした養生を重ねていくことが、遠回りのようでいて確かな道のりになります。どの処方がご自身に合うかは、体質やお困りの内容によって変わりますので、自己判断ではなく、ぜひ一度ご相談ください。運龍堂では、基礎体温表を拝見しながら、薬剤師が丁寧にお話をうかがっています。遠方の方やご来店の時間が取りにくい方のために、オンライン相談(オンライン診療)にも対応しておりますので、お気軽にお申し込みください。