妊娠しやすい体作りについて

はじめに

不妊は、多くのカップルにとって深刻な問題です。日本では、約5~6組に1組の夫婦が不妊に悩んでいるとされています。不妊の原因はさまざまで、ホルモンバランスの乱れ、生活習慣、ストレス、加齢、疾患などが関係しています。
最近では、病院での不妊治療だけでなく、漢方や生薬を取り入れた「妊娠しやすい体づくり」に注目が集まっています。漢方は、体のバランスを整えることで、妊娠しやすい状態に導く効果が期待できます。本記事では、不妊の主な原因と、それに対する漢方薬・生薬を使った対策について詳しく説明します。

不妊の原因

①ホルモンバランスの乱れ

妊娠には、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の働きが重要です。これらのホルモンが適切に分泌されないと、排卵が正常に起こらず、妊娠が難しくなります。

主な原因

  • ストレス
  • 睡眠不足
  • 生活リズムの乱れ
  • 過度なダイエットや肥満 

②冷え性と血流不足(瘀血:おけつ)

血行が悪くなると、子宮や卵巣に十分な血液が届かず、妊娠しにくくなります。特に「冷え性」の人は、子宮の温度が低く、受精卵が着床しづらくなります。

主な原因

  • 冷たい飲み物や食べ物の摂取
  • 運動不足
  • 自律神経の乱れ
  • 過度なストレス 

③加齢による卵子の質の低下

35歳を過ぎると、卵子の質が低下し、妊娠率が下がります。これは、加齢による卵巣機能の低下が関係しています。 

④ 子宮や卵巣の疾患

  • 子宮内膜症(子宮内膜が異常に増殖し、受精卵が着床しにくくなる)
  • 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)(排卵がスムーズに行われない)
  • 甲状腺疾患(ホルモンバランスに影響を与え、不妊の原因となる)

漢方薬による不妊対策

漢方は、体のバランスを整え、「妊娠しやすい体」を作るのに役立ちます。以下に、不妊治療によく使われる漢方薬を紹介します。

① 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

血の巡りを良くし、冷え性を改善 
適応: 冷え性、貧血、生理不順

主な生薬と働き

  • 当帰(とうき): 血を補い、血行を良くする
  • 川芎(せんきゅう): 血の流れをスムーズにする
  • 芍薬(しゃくやく): 筋肉の緊張を和らげる

② 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

血行を促進し、子宮環境を整える 
適応: ・瘀血(おけつ:血行不良)、冷え性、生理痛

主な生薬と働き

  • 桂枝(けいし): 主に皮膚の表面の血流を改善し、体を温める
  • 茯苓(ぶくりょう): 体内の余分な水分を排出する
  • 桃仁(とうにん)/牡丹皮(ぼたんぴ): 血液の流れを良くし、「瘀血」を解消する

③八味地黄丸(はちみじおうがん)

腎の働きを補い、ホルモンバランスを整える 
適応: 冷え性、頻尿、腰痛、加齢による体力低下、不妊

主な生薬と働き

  • 地黄(じおう): 血を補い、体の潤いを維持
  • 山茱萸(さんしゅゆ): 腎の働きを高め、ホルモンバランスを整える
  • 山薬(さんやく): 体力を補い、消化吸収を助ける
  • 桂皮(けいひ): 体を温め、血行を促進
  • 茯苓(ぶくりょう): 余分な水分を排出し、むくみを改善 

腎の働きを高め、妊娠しやすい体づくりをサポートする処方。特に冷え性や加齢による不妊に適している。

④活命参(かつめいさん)

体力を補い、血流を改善し、妊娠しやすい体づくりをサポート 
適応: 冷え性、疲れやすい、貧血、ホルモンバランスの乱れ、不妊 

主な生薬と働き

  • 人参(にんじん): 気(エネルギー)を補い、疲労回復
  • 鹿茸(ろくじょう): 腎の働きを強化し、ホルモンバランスを整える

⑤複方霊黄参丸(ふくほうれいおうさんがん)(救心製薬)

気力・血流を高め、ホルモンバランスを整える 適応: 疲れやすい、血行不良、ホルモンバランスの乱れ、不妊

主な生薬と働き

  • 牛黄(ごおう): 血流を良くし、ホルモンバランスを整える
  • 鹿茸(ろくじょう): 腎を補い、生殖機能を高める
  • 人参(にんじん): 体力を補い、冷え性を改善

複方霊黄参丸は、エネルギー不足や血行不良による不妊に効果的。ストレスが多く、ホルモンバランスが乱れやすい方におすすめ。

⑥和漢薬(わかんやく)(ウチダ和漢薬)

血流を改善し、ホルモンバランスを整え、不妊治療をサポート
適応: 血行不良、生理痛、生理不順、冷え性、不妊、高血圧、動悸

主な生薬と働き

  • 丹参(たんじん): 血流を改善し、子宮や卵巣の血行を促進する
  • 紅花(こうか): 瘀血(血の滞り)を解消し、生理痛や生理不順を改善
  • 香附子(こうぶし): 自律神経を整え、ホルモンバランスを調整し、生理周期を安定させる
  • 川芎(せんきゅう): 血流を良くし、頭痛や生理痛を軽減する

和漢薬は、血流を良くし、ホルモンバランスを整えることで、不妊治療をサポートする和漢薬。不妊症のほか、冷え性、生理痛、動悸、高血圧などにも効果がある。特に、ストレスによるホルモンの乱れや血行不良が原因の不妊に適している。

生薬を使った妊娠しやすい体づくり

① 鹿茸(ろくじょう)

滋養強壮・ホルモンバランスを整える

  • 副腎を強化し、女性ホルモンの分泌を促進
  • 冷え性を改善し、妊娠しやすい体を作る

② 牡蛎(ぼれい)

精神安定・ストレス軽減

  • 精神的なストレスによる不妊対策に有効
  • 自律神経を整え、リラックス効果を高める

③ 杜仲葉(とちゅうよう)

腎の機能を高める(妊娠しやすい体づくり)

  • 血流を良くし、ホルモンバランスを整える

妊娠しやすい体づくりのための生活習慣の改善

妊娠しやすい体を作るためには、ホルモンバランスを整え、血行を良くし、ストレスを減らすことが重要です。日常生活のちょっとした習慣を見直すことで、妊娠しやすい環境を整えることができます。以下のポイントについて詳しく説明します。

①適度な運動(ウォーキング・ヨガ)
血行を促進し、ホルモンバランスを整える 運動は、妊活にとってとても重要な要素です。適度な運動を行うことで、血流が改善され、卵巣や子宮への血液供給が増えます。また、ストレスを軽減し、自律神経のバランスを整える効果もあります。

ウォーキング(1日30分を目安)

  • 血行促進により、子宮や卵巣の働きを高める
  • 自律神経を整え、ストレスを軽減
  • 筋力を維持し、冷え性の改善につながる

ヨガ(週2~3回)

  • 深い呼吸により、自律神経を整え、リラックス効果を高める
  • 骨盤周りの筋肉をほぐし、血流を改善
  • 子宮や卵巣への血液循環を良くし、ホルモン分泌をサポート

② バランスの良い食事

鉄分・葉酸・ビタミンE を積極的に摂取
栄養バランスの取れた食事は、ホルモンの分泌を正常にし、妊娠しやすい体を作る基盤となります。特に、妊活中は 「血流を良くする」「ホルモンバランスを整える」「子宮環境を整える」 栄養素を意識して摂取することが重要です。

鉄分(造血作用・血行促進)

  • 摂取できる食品:レバー、ほうれん草、ひじき、大豆製品、赤身の肉
  • ポイント:ビタミンC(柑橘類・パプリカ)と一緒に摂ると吸収率アップ

※葉酸(細胞の成長促進・妊娠初期の発育を助ける)

  • 摂取できる食品:ブロッコリー、枝豆、アボカド、モロヘイヤ
  • ポイント:妊娠前から摂取することで、受精卵の成長を助ける 

ビタミンE(抗酸化作用・ホルモンバランスを整える)

  • 摂取できる食品:アーモンド、かぼちゃ、うなぎ、アボカド
  • ポイント:血流を良くし、卵巣機能を高める

その他おすすめの栄養素

  • 亜鉛(ホルモンの合成をサポート):牡蠣、牛肉、ナッツ類
  • 大豆イソフラボン(女性ホルモン様作用):豆乳、納豆、豆腐

※食事のポイント

  • 冷たいものを避け、温かい食事を心がける
  • 1日3食、規則正しく摂ることで、ホルモンバランスを安定させる

③ 体を冷やさない(湯船につかる・温かい飲み物)

子宮を温め、血行を良くする 体が冷えると、血流が滞り、子宮や卵巣の働きが低下します。妊活中は、積極的に体を温める生活習慣を心がけましょう。

湯船につかる(38~40℃のお湯で10~15分)

  • 血行を促進し、冷えを改善
  • 副交感神経を優位にし、リラックス効果を高める

温かい飲み物を摂る

  • おすすめの飲み物:生姜湯、ルイボスティー、ほうじ茶、黒豆茶
  • 避けたいもの:カフェイン(コーヒー・緑茶)、冷たいジュース

靴下・腹巻きで下半身を温める

  • 足元を温めることで、全身の血流を促進
  • お腹周りを温めることで、子宮の温度を維持
  • エアコンの効いた部屋では、膝掛けや靴下を活用
  • 冬場はカイロを活用し、お腹や腰を温める

④ ストレスをためない(趣味やリラックスする時間を作る)

ホルモンバランスを整え、妊娠しやすい状態をキープ ストレスは、脳の視床下部に影響を与え、ホルモンバランスを乱す原因になります。リラックスできる時間を作り、ストレスを溜め込まないようにしましょう。

※おすすめのストレス解消法

  • アロマテラピー(ラベンダー、カモミール、ローズ)
  • 深呼吸・瞑想(1日5分でもOK)
  • 趣味の時間を持つ(読書、音楽、映画、ハンドメイドなど)
  • 自然に触れる(公園を散歩する、緑の多い場所でリラックス)

※パートナーとのコミュニケーションを大切に

  • 妊活のプレッシャーを減らし、夫婦で楽しく取り組むことが大切
  • 互いに支え合うことで、ストレスを軽減
  • 頑張りすぎず、自分のペースで妊活を進める 

まとめ

不妊の原因はさまざまですが、漢方や生薬を活用し、体質を改善することで「妊娠しやすい体」を作ることができます。特に、ホルモンバランスを整える漢方や、生薬の力を活用することで、自然な形で妊娠をサポートすることが可能 です。 また、日々の生活習慣を見直し、ストレスを減らし、体を温めること も大切です。妊活に悩んでいる方は、ぜひ漢方を取り入れてみてください!

文責:杜の都の漢方薬局 運龍堂