生理不順の原因と漢方での対策について

はじめに

生理不順は、妊活に限らず、女性の健康において非常に重要な問題であり、その原因は多岐にわたります。ストレス、ホルモンバランスの乱れ、栄養不足、生活習慣の変化などが主な要因として挙げられます。これらの要因は、体内のホルモン分泌に影響を与え、生理周期を不規則にすることがあります。特に、ストレスは自律神経系に影響を及ぼし、月経周期を乱す大きな要因となりますので、対策が必要です。

生理不順の原因

ホルモンバランスの乱れ

生理周期は、主に卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)によって調整されています。これらのホルモンは、脳の視床下部、下垂体、卵巣の三つの器官が連携して分泌されます。このいずれかに異常が生じると、ホルモンバランスが崩れ、生理不順が引き起こされます。特にストレスは視床下部に影響を与えやすく、ストレスが強いとホルモン分泌が乱れることがあります。

過度なダイエットや激しい運動

栄養不足や過度な運動は、身体が生命維持を優先するために妊娠を防ぐ方向に働きかけることがあります。特に急激な体重減少は、卵巣機能を低下させ、生理不順を引き起こす要因となりますので、注意が必要です。

精神的ストレス

精神的なストレスは生理不順の主要な原因とされています。ストレスがホルモン分泌に影響を与え、結果として生理周期が乱れることがあります。現代社会では、仕事や人間関係からくるストレスが多く、この影響を受ける女性が増えています。

年齢による変化

思春期や更年期前後では、ホルモンバランスが変化しやすく、生理不順が見られることがあります。特に思春期では体が成熟していないため不安定であり、更年期では卵巣機能の低下により生理周期が乱れることがあります。

病気や疾患

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や甲状腺疾患(バセドウ病や橋本病など)は、生理不順を引き起こす可能性があります。これらの疾患はホルモンバランスに直接的な影響を与え、不妊症の原因にもなることがあります。

生活習慣の乱れ

不規則な生活習慣や睡眠不足も生理不順の原因となります。特に睡眠不足はホルモン分泌に悪影響を及ぼし、結果として生理周期が乱れることがあります。

漢方薬による対策

漢方は、生理不順に対して有効です。

以下に、代表的な処方を紹介します。

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

当帰芍薬散は、冷え性や貧血、生理不順、月経困難症、更年期障害などの症状に効果がある漢方薬です。筋肉が軟弱で疲れやすく、全身が冷えやすい方に向いています。特に、冷え性で貧血傾向があり、全身倦怠感やめまい、頭痛、肩こり、動悸などを伴う場合に用いられます。

  • 当帰(とうき):血行を促進し、血液を補う作用があります。
  • 川芎(せんきゅう):血流を改善し、痛みを和らげる効果があります。
  • 芍薬(しゃくやく):筋肉の緊張を緩和し、痛みを軽減します。
  • 茯苓(ぶくりょう):水分代謝を整え、むくみを改善します。

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

桂枝茯苓丸は、瘀血(おけつ)を改善することで、月経不順や月経痛、更年期障害などの症状に効果があります。瘀血とは、血液の流れが滞っている状態を指し、これが原因で生理不順が生じることがあります。桂枝茯苓丸は、血行を促進し、瘀血を解消することで、生理不順の改善に寄与します。

  • 桂枝(けいし):体温を上昇させ、血行を促進します。
  • 芍薬(しゃくやく):筋肉の緊張を和らげる作用があります。
  • 茯苓(ぶくりょう):水分代謝を整えます。
  • 牡丹皮(ぼたんぴ)と桃仁(とうにん):血液の流れを良くし、「瘀血」を解消します。

四物湯(しもつとう)

四物湯は、血液の質と量を改善し、全身の血行を良くすることで、ホルモンバランスの乱れを整えます。これにより、月経周期の正常化や生理痛の軽減が期待できます。また、体を温める効果もあるため、冷え性が原因で生じる生理不順の改善にも有効です。

  • 当帰(とうき): 血液の循環を促進し、鎮痛効果があります。特に女性の生理痛や産後の回復に効果的です。
  • 川芎(せんきゅう): 血行を良くし、痛みを和らげる作用があります。生理不順や月経異常に関連する痛みを軽減します。
  • 芍薬(しゃくやく): 筋肉の緊張を緩和し、血管の動きをスムーズにします。これにより、生理痛を和らげる効果があります。
  • 地黄(じおう): 血液を補い、体内の水分バランスを整える作用があります。特に乾燥肌や冷え性にも効果的です。

生薬による改善方法

生理不順の改善にさまざまな生薬が用いられています。特に注目されるのが鹿茸(ろくじょう)とトナカイの角です。また、ストレス対策として、麝香(じゃこう)が有用です。

鹿茸(ろくじょう)

鹿茸は、主に滋養強壮や体力回復、アンチエイジングに用いられる生薬ですが、副腎の機能を改善することで、性ホルモンのバランスを整えます。生理不順に加えて、無月経や不正出血などの婦人科系疾患に効果があります。

鹿茸には以下のような効能があります:

  • 血行促進:血液循環を良くし、冷え性や月経痛を和らげる効果があります。
  • ホルモンバランス調整:副腎の機能を改善することで、女性ホルモンの分泌を助ける作用があり、生理周期を整える手助けとなります。
  • 疲労回復:体力を増強し、ストレスによる疲労感を軽減します。

トナカイの角

トナカイの角もまた、漢方で用いられる生薬であり、高温期を維持する黄体ホルモン(プロゲステロン)の材料にもなります。その効能は以下の通りです。

  • 滋養強壮:トナカイ角には多くの栄養素が含まれており、体力回復や免疫力向上に寄与します。
  • 血液浄化作用:血液中の老廃物を排出し、新陳代謝を促進します。
  • 抗炎症作用:体内の炎症を抑える効果があり、生理痛などにも有効です。
  • 高温期を維持する黄体ホルモン(プロゲステロン)の産生を助けます。

麝香(じゃこう)

麝香は、自律神経を整える生薬としては最高峰のものです。ストレスによるホルモンバランスの崩れを改善できます。特に高温期の体温が上下する場合は強いストレスを受けている場合が多いので、麝香で対応します。

  • 強心作用:心臓の機能を高め、血液循環を促進します。 
  • 鎮静作用:神経の興奮を抑え、リラックス効果をもたらします。
  • 自律神経調整:自律神経のバランスを整え、ストレスや緊張を和らげます。 
  • 呼吸促進:呼吸機能を改善し、酸素供給を助けます。
  • 強壮作用:体力や活力を増強し、疲労回復に寄与します。 

生活習慣改善と漢方薬を併用することが重要

漢方薬や生薬だけでなく、日常生活で以下の点にも注意することが大切です:

規則正しい生活リズムの確立

  • 睡眠の質と量の確保: 毎日同じ時間に就寝・起床することで、体内時計が整い、ホルモンバランスの安定に寄与します。 
  • 食事の時間を一定に保つ: 朝食・昼食・夕食を決まった時間に摂取することで、体のリズムが整い、内分泌系の働きが正常化します。 

バランスの良い食生活

  • 栄養素のバランス: 炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルをバランスよく摂取することが大切です。特に、鉄分やビタミンB群は血液の生成やホルモンの合成に関与します。 
  • 過度なダイエットの回避: 

急激な体重減少や極端な食事制限は、ホルモンバランスを崩し、生理不順の原因となります。 

適度な運動の実践

  • 有酸素運動の導入: ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動は、血行を促進し、ホルモンの分泌を正常化します。
  • ストレッチやヨガ: 柔軟性を高める運動は、リラクゼーション効果があり、ストレスの軽減にも役立ちます。

ストレス管理

  • リラクゼーション法の活用: 深呼吸、瞑想、趣味の時間を持つなど、自分に合った方法でストレスを解消しましょう。
  • 過度な労働や学業の見直し: 過労はホルモンバランスを乱す要因となるため、適度な休息を心がけることが重要です。 

体の冷え対策

  • 衣類の選択: 季節に応じて適切な衣類を選び、特に下半身を冷やさないように注意します。
  • 入浴習慣の見直し: シャワーだけで済まさず、湯船に浸かることで体を芯から温め、血行を促進します。

禁煙と適度な飲酒

  • 喫煙の影響: タバコは血行を悪化させ、ホルモンバランスを乱すため、禁煙が推奨されます。
  • 飲酒の適度な管理: 過度なアルコール摂取は内分泌系に影響を及ぼすため、適量を守ることが大切です。

まとめ

生理不順は多くの女性が抱える悩みですが、漢方薬や生薬を活用することで改善が期待できます。特に鹿茸やトナカイの角は、その滋養強壮作用から注目されています。生活習慣も見直しながら、自分自身に合った方法で健康的な月経周期を取り戻しましょう

文責:杜の都の漢方薬局 運龍堂