- 気分
- 産後
- 解消
産後の気分の落ち込み・不安と漢方|消耗した「気」と「血」を補い、心を立て直す養生
はじめに
赤ちゃんを迎えた喜びの一方で、理由もなく涙が出る、不安で胸がざわつく——産後にこうした気持ちの揺れを経験する方は、決して少なくありません。産後数日から2週間ほどのあいだに一時的な気分の変化(マタニティブルーズ)を経験する方は多く、また産後1年以内には、一定の割合で産後うつと呼ばれる状態が見られるとされています。これはあなたの心が弱いからでも、母親としての愛情が足りないからでもなく、体に起きた大きな変化の結果です。漢方では、出産を「気」と「血」を大きく消耗する営みととらえ、減ってしまった分をおぎない、心の土台を立て直すことを大切にしてきました。ただし漢方は医療の代わりではありません。つらさが2週間以上続く、眠れない日が重なる、赤ちゃんやご自身を傷つけたい気持ちが浮かぶ——そうしたときは、ためらわず産婦人科・精神科・お住まいの自治体の相談窓口・助産師にご相談ください。ここでは、産後の心の不調と漢方の考え方について、運龍堂の視点から解説します。

産後に気分が落ち込みやすい理由
● 西洋医学的な観点から
出産を終えると、妊娠中に胎盤から大量に分泌されていたエストロゲンとプロゲステロンが、わずか数日のあいだに妊娠前の水準まで一気に低下します。これらのホルモンは、脳内で気分に関わるセロトニンなどのはたらきにも影響するため、急激な低下は感情の波を生じやすくすると考えられています。妊娠中に安定していた土台が、一晩で切り替わるような変化です。

さらに、分娩時の出血によって鉄が失われ、貧血に傾くと、疲れやすさや集中力の低下、気分の沈みとして現れます。授乳や夜泣きで睡眠が細切れになることも大きな要因です。まとまって眠れない状態が続くと、脳は回復の時間を確保できず、些細なことでも涙が出たり、いらだちやすくなったりします。加えて、産後は甲状腺のはたらきが一時的に変動しやすい時期でもあり、動悸や強い倦怠感、気分の落ち込みという形で表面化することがあります。授乳そのものも、一日あたり数百キロカロリーのエネルギーと、多くの水分やカルシウムを必要とする営みであり、体には相応の負担がかかっています。つまり産後の気分の変化は、複数の身体的な事情が重なって起きているのです。

● 東洋医学(漢方)の観点から
漢方では、出産は「血(けつ)」を大きく消耗する営みだと古くから考えられてきました。血とは、体をうるおして栄養を運び、心を安定させる土台となるものです。この血が足りない状態を血虚(けっきょ)といい、めまいや動悸、眠りの浅さ、漠然とした不安として現れやすくなります。同時に、陣痛と分娩、そして休みのない育児で消耗するのが、体を動かすエネルギーである「気」です。気が足りない状態は気虚(ききょ)と呼ばれ、疲れやすさ、声に力が入らない、食欲がわかないといったサインになります。また、心配ごとや緊張が続いて気のめぐりが滞った状態を気滞(きたい)といい、のどのつかえ感や胸のつまり、ため息の多さとして感じられます。産後は悪露があり、血のめぐりが滞る瘀血(おけつ)に傾くこともあって、下腹部の痛みや肩こり、気分の重さにつながると考えられています。さらに、出産と育児で生命力の貯えが減った状態は腎虚(じんきょ)と表現され、白髪や抜け毛、足腰の力の入らなさとして自覚されることもあります。産後の心の不調は、これらがいくつも重なって起こることがほとんどです。

主な症状
産後に現れやすいサインは、気持ちの面と体の面の両方にあります。気持ちの面では、理由のわからない涙、強い不安感、いらだち、罪悪感、何をしても楽しめない、赤ちゃんをかわいいと思えない自分を責めてしまう、といった変化です。体の面では、眠りたいのに眠れない、動悸、めまいや立ちくらみ、頭痛、肩や首のこり、食欲がわかない、食べても味を感じない、便秘や下痢などがみられます。これらはどれも、あなたの努力が足りないから起きているのではありません。体がまだ回復の途中にあるという合図として、受け止めていただければと思います。

服用可能な漢方薬・薬膳素材
● ①加味帰脾湯(かみきひとう)
消耗した気と血をおぎないながら、高ぶった熱をさまして気持ちを落ち着かせる処方です。人参・黄耆・白朮などが補気(ほき/エネルギーをおぎなうこと)を担い、当帰・竜眼肉・酸棗仁が補血(ほけつ/血をおぎなうこと)と眠りの安定を助けます。さらに柴胡と山梔子が、内にこもった熱やいらだちをさばきます。疲れきっているのに神経だけが高ぶって眠れない、ささいなことで涙が出る、不安で胸がざわつく、といった産後の方に向くとされ、心の不調ではまず検討されることの多い処方です。

● ②酸棗仁湯(さんそうにんとう)
酸棗仁を主役に、茯苓・知母・川芎・甘草を加えた五味で構成される、眠りのための処方です。心身が消耗しているのに神経だけが冴えてしまい、横になっても寝つけない、夜中に目が覚めるとそのまま眠れない、という状態に用いられてきました。知母が余分な熱をやわらげ、川芎がめぐりを助けるため、寝つきの悪さに加えて手足のほてりや寝汗が気になる方にも向くとされます。授乳のたびに起こされる産後は眠りの質が下がりやすく、眠れないつらさが気分の落ち込みを強めている方に検討されます。
● ③十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
人参・黄耆・白朮・茯苓・当帰・芍薬・地黄・川芎・桂皮・甘草からなり、気と血の両方をしっかりおぎなう代表的な処方です。出産や授乳、続く睡眠不足で体力を使い果たしてしまった方、顔色がすぐれず少し動いただけで息切れする方、手足が冷えて食欲もわかない方に用いられます。心の不調を直接ねらう処方ではありませんが、心を支える土台である体力が底をついている場合、まず土台を立て直すことが結果として気持ちの安定につながると考えられてきました。産後の回復期に選ばれることの多い処方です。

● ④半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
半夏・厚朴・茯苓・蘇葉・生姜の五味からなり、のどに何かがつかえたような感じ、胸がふさがるような息苦しさ、ため息が増えるといった訴えに用いられる処方です。気滞、つまり気のめぐりが滞った状態をさばくことを得意とし、緊張や不安で呼吸が浅くなっている方に向くとされます。検査では異常が見つからないのに、のどの違和感や軽い吐き気が続くという場合にも検討されます。体力を大きくおぎなう処方ではないため、消耗が強い方には、補う処方と組み合わせて考えることもあります。
● ⑤六君子湯(りっくんしとう)
人参・白朮・茯苓・甘草に半夏・陳皮を加えた構成で、胃腸のはたらきが落ちて、食欲がわかない、少し食べただけで胃がもたれる、みぞおちがつかえる、といった方に用いられます。余分な水分がたまった水滞(すいたい)をさばく力も持ち合わせています。漢方では、食べたものから気と血がつくられると考えるため、食が細いままでは、おぎなう処方も力を発揮しにくくなります。産後に食事がのどを通らない、体重が落ちすぎて力が入らないという方の、立て直しの一歩として選ばれることがあります。

なお、ここに挙げた処方は、授乳中の方がご自身の判断で選ぶものではありません。母乳を通してお子さんに影響しうる生薬もありますので、服用にあたっては必ず医師・薬剤師・登録販売者にご相談ください。産婦人科などで処方されているお薬がある場合は、その内容もあわせてお伝えいただくと安心です。
薬膳素材
食品として日々の食卓に取り入れられる素材にも、心と体をやさしく支えてくれるものがあります。龍眼肉(りゅうがんにく)はライチに似た甘みのある果肉で、滋養に富み、そのままでも、なつめとあわせてお湯で煮出しても召し上がれます。なつめ(棗)は胃腸にやさしく、疲れた体をいたわる素材として、スープやお粥に加えられてきました。蓮肉(れんにく)は蓮の実で、気持ちを落ち着けたいときの薬膳粥によく使われます。金針菜(きんしんさい)はユリ科の花のつぼみを乾燥させたもので、鉄分を含み、中華風のスープや炒めものに使える身近な食材です。玖瑰花(まいかいか)はハマナスのつぼみで、ばらに似た香りが気分の切り替えを助けてくれます。菊花(きくか)は、目の疲れが気になるときに枸杞の実(くこのみ)とあわせてお茶にすると、香りと彩りの両方を楽しめます。まずは温かい飲みものとして少量から、ご自身が心地よいと感じるものを選んでみてください。
また運龍堂では、忘憂草(ぼうゆうそう)製剤もお取り扱いしています。金針菜は、この忘憂草(ワスレグサ)のつぼみにあたり、その名のとおり「憂いを忘れる草」として、古くから気分の落ち込みが気になるときに用いられてきました。あわせて、体を芯から養う生薬として知られる鹿茸(ろくじょう)もご用意しております。いずれも授乳中の摂取については、必ず専門家にご相談のうえでお決めください。

注意が必要な漢方薬
産後、とくに授乳中は、選ぶ漢方薬に注意が必要です。大黄(だいおう)やセンナに含まれる成分は母乳へ移行しうるとされ、赤ちゃんに下痢を起こす可能性が指摘されています。便秘がつらいからと、瀉下作用のある市販薬や漢方薬を自己判断で続けることは避けてください。麻黄(まおう)は動悸や不眠、血圧の上昇を招くことがあり、気持ちが高ぶりやすい産後には向かない場合があります。附子(ぶし)は体を強く温める生薬ですが、使う量には専門的な判断が必要です。また、多くの漢方薬に含まれる甘草(かんぞう)は、摂りすぎるとむくみや血圧上昇、だるさ、手足の力が入りにくいといった症状をともなう偽アルドステロン症を招くことがあり、複数の漢方薬を重ねて飲むと、気づかないうちに量が増えてしまいます。鎮静作用をもつ生薬やサプリメントを、病院のお薬と自己判断で併用することも避けてください。市販薬との重複を防ぐためにも、いま飲んでいるものはすべて専門家にお伝えいただくのが安全です。
おすすめの食品
産後の体は、失われたものを取り戻していく時期にあります。まず意識したいのが鉄です。赤身の肉や魚、レバー、あさり、小松菜などに多く含まれ、ビタミンCを含む野菜や果物といっしょにとると吸収が高まります。次にたんぱく質です。卵、豆腐、納豆、魚、鶏肉などを毎食少しずつ取り入れると、体の修復と母乳づくりの材料になります。ビタミンB群は玄米や豚肉、納豆、卵に多く、エネルギーをつくり出す過程と神経のはたらきを支えます。青魚に多いDHAやEPAも、産後の心身の調子を整える栄養素として注目されています。そして産後の食べ方でいちばんおすすめしたいのが、温かい汁物です。具だくさんのみそ汁、鶏肉となつめを入れたスープ、根菜のポトフなどは、水分と栄養を同時にとれて消化にもやさしく、片手でも食べられます。冷えた体を内側から温めることは、気持ちの落ち着きにもつながります。手のこんだ料理をつくる必要はまったくありません。冷凍食品やお惣菜、レトルトを頼ることも、立派な産後の養生です。
避けた方が良い食品・飲み物
カフェインは母乳に移行し、赤ちゃんの寝つきに影響することがあります。コーヒーや濃いお茶、エナジードリンクは量を控えめにし、飲むなら授乳の直後にするなど、タイミングを工夫してみてください。アルコールも母乳に移行するため、授乳中は控えるのが基本です。眠れないからと寝酒に頼ると、かえって眠りが浅くなってしまいます。冷たい飲みものやアイス、生野菜ばかりの食事も、産後の体には負担になりがちです。氷の入った飲みものより、常温か温かいものを選んでみてください。そしてもっとも気をつけていただきたいのが、極端な食事制限です。体型が気になるお気持ちは自然なものですが、この時期の急なダイエットは、栄養不足から気分の落ち込みや強い疲労を招きます。体型を整えるのは、体力が戻ってからでも十分に間に合います。
日常生活での対策
何より優先していただきたいのは、まとまった睡眠です。一日のうち一度でも、三時間続けて眠れる時間をつくれるよう、パートナーやご家族に授乳やミルクを代わってもらう相談をしてみてください。多くの自治体には、産後ケア事業として宿泊型や日帰り型の休養サービス、助産師による訪問相談が用意されています。費用の一部を自治体が負担する仕組みもありますので、お住まいの窓口に問い合わせてみる価値は十分にあります。朝、カーテンを開けて日光を浴びることも、体内時計を整える助けになります。数分ベランダに出るだけでかまいません。体を動かすなら、産後の経過に応じて、赤ちゃんとの短い散歩や、深い呼吸に合わせたゆっくりしたストレッチから始めてみてください。ツボでは、手首の内側のしわの小指側にある神門(しんもん)、手首から指三本分ひじ寄りの内関(ないかん)、頭のてっぺんの百会(ひゃくえ)が知られています。心地よいと感じる強さで、息を吐きながらゆっくり押してみてください。

まとめ
産後の気分の落ち込みや不安は、ホルモンの急激な変化、出血による消耗、細切れの睡眠といった体の事情が重なって起こるものです。漢方では、これを気と血を大きく消耗した状態ととらえ、加味帰脾湯・酸棗仁湯・十全大補湯・半夏厚朴湯・六君子湯などを、その方の体力やお困りごとに合わせて用いてきました。あわせて、鉄とたんぱく質を意識した温かい食事、まとまった睡眠、そしてまわりを頼ることが土台になります。くり返しになりますが、漢方は医療の代わりではありません。つらさが2週間以上続く、眠れない日が重なる、赤ちゃんやご自身を傷つけたい気持ちが浮かぶ——そうしたときは、ためらわず産婦人科・精神科・自治体の相談窓口・助産師にご相談ください。運龍堂では、お一人おひとりの体質やお困りごとをうかがったうえで、無理のない漢方薬や薬膳素材をご提案しています。ご来店が難しい産後の時期でも、オンラインでのご相談に対応しておりますので、どうぞお気軽にお声がけください。
■杜の都の漢方薬局 運龍堂: https://unryudo.com/
■公式LINE: https://lin.ee/bxPNFJV
(公式LINEにご登録頂くと、限定動画を無料で見ることができます!)
■公式インスタグラム: https://www.instagram.com/unryudo/
~オンライン漢方相談~
運龍堂では、わざわざご来店いただかなくても、オンラインによる遠隔でのご相談にも対応しております。 漢方を通して、皆様の健康と生活習慣を整えられればと思います。まずはお気軽にご相談いただければ幸いです。
上記の公式LINEより、
またはお問い合わせフォーム:https://unryudo.com/contact/
からお問い合わせください。