逆子(骨盤位)と漢方|冷えと気血の巡りを整えて、赤ちゃんが動きやすい体づくり

はじめに

妊婦健診で「赤ちゃんの向きが逆さまですね」と言われ、不安になった方も多いのではないでしょうか。逆子(さかご)は医学的には骨盤位(こつばんい)と呼ばれ、赤ちゃんのお尻や足が子宮の出口側を向いている状態です。妊娠28週頃には約25〜30%が骨盤位といわれ、珍しいことではありません。その後、自然に頭位(とうい)へ向きを変える赤ちゃんが多く、実際の分娩時にはおよそ3〜5%程度まで減るとされています。

とはいえ、待つあいだの不安や、お腹の張り、冷え、胃の圧迫感はつらいものです。漢方では、逆子そのものを狙い撃ちするというより、体を温め、気(き)と血(けつ)の巡りを整えて、赤ちゃんが動きやすい環境をつくると考えます。ここでは妊娠中の骨盤位を、冷えと巡りという切り口から、運龍堂の視点から解説します。


逆子(骨盤位)が起こりやすい理由

●西洋医学的な観点から

赤ちゃんは妊娠中期までは羊水(ようすい)の中で自由に回転しており、向きが定まっていないのがふつうです。妊娠24週頃には3〜4割程度、28週頃で約25〜30%、32週頃で1割前後となり、36週を過ぎると多くが頭を下にした姿勢に落ち着きます。それでも骨盤位が続く場合、次のような要因が考えられています。

ひとつは子宮の形や広さです。双角子宮(そうかくしきゅう)などの形態、子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)による内腔の変形、前置胎盤(ぜんちたいばん)など胎盤の位置によって、赤ちゃんが回りにくくなることがあります。もうひとつは羊水量で、少ないと回転しにくく、多すぎると向きが定まりにくいといわれます。さらに、双子などの多胎妊娠、早産の時期(妊娠37週未満)、赤ちゃんの体重が小さめであることなども関わるとされます。

産科では一般に妊娠36週前後を目安に方針を検討し、施設によっては36〜37週頃に外回転術(がいかいてんじゅつ)という、お腹の上から向きを変える処置を提案することがあります。骨盤位のまま出産に至る場合は、多くの施設で帝王切開が選択されます。いずれも産婦人科の管理のもとで判断される事柄です。


●東洋医学(漢方)の観点から

東洋医学では、赤ちゃんの姿勢を直接どうこうするというより、お母さんの体の状態が赤ちゃんの動きやすさに影響すると考えます。鍵になるのは、体を動かすエネルギーである「気(き)」と、栄養や潤いを運ぶ「血(けつ)」の巡りです。

まず気虚(ききょ)。体を動かし内臓を支えるエネルギーが足りない状態です。妊娠中は赤ちゃんを養うために多くのエネルギーを使うため、疲れやすい、息切れするといった形で表れます。

次に血虚(けっきょ)。血のうるおいや栄養分が足りない状態で、顔色がさえない、めまいや立ちくらみ、髪や肌のパサつき、こむら返りなどとして現れます。妊娠中はもともと血を多く必要とするため、不足しやすい時期です。

そして冷えです。体が冷えると、水道管の水が流れにくくなるように、気血の流れもゆるやかになると考えます。下半身やお腹まわりが冷えている方は、子宮まわりの筋肉もこわばりやすくなります。さらに気滞(きたい)、つまり気の流れが一か所で滞る状態も関わります。不安や緊張が続くと、ため息が増える、胸やのどがつかえる、お腹が張るといった形で現れます。冷えと緊張をゆるめ、気血がのびやかに巡る状態へ整えることが、漢方の基本的な考え方です。


主な症状

骨盤位そのものには、痛みなどのはっきりした自覚症状はほとんどありません。多くの場合、妊婦健診の超音波検査ではじめて指摘されます。ただし、体の状態としては次のようなサインを伴うことがあります。

下腹部が張る、硬くなる感じがする。腰やお尻、足先が冷えて温まりにくい。胃のあたりが押し上げられるようで、食事が少量しか入らない。肋骨のあたりに丸いものが当たる、ゴリゴリした違和感がある。これは赤ちゃんの頭が上側にあるために起こりやすい感覚といわれます。ほかに足のむくみ、寝つきの悪さ、続く不安感なども重なりやすくなります。


服用可能な漢方薬・薬膳素材

ここでは妊娠中の体を支えるという観点から、運龍堂で扱っている処方のうち、比較的おだやかで、妊娠中にも相談のうえで用いられることのある5つをご紹介します。いずれも体質や妊娠週数によって向き不向きがあります。妊娠中の漢方薬は、必ず主治医(産婦人科)と薬剤師に相談したうえで服用してください。自己判断での開始や中止は避けましょう。


●①当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、沢瀉(たくしゃ)から成る処方です。血を補いながら巡りを助け、あわせて余分な水分をさばく働きが期待され、婦人科領域で古くから用いられてきました。強く動かすというより不足を補って整えるおだやかな性質があり、妊娠中にも医師の判断のもとで使われることがあります。向いているのは、色白で疲れやすく、冷え症で、めまいや立ちくらみ、足のむくみがある方です。体力が充実してのぼせやすい方には合いにくいとされます。


●②六君子湯(りっくんしとう)

運龍堂がとくにおすすめしたい処方です。人参(にんじん)、白朮、茯苓、半夏(はんげ)、陳皮(ちんぴ)、大棗(たいそう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)から成り、胃腸のはたらきを助けながらエネルギーを補います。妊娠後期は大きくなった子宮に胃が押し上げられ、少し食べただけで満腹になる、食欲がわかないという方が少なくありません。六君子湯は、そうした胃の重さやもたれ、食欲不振に対し、胃の動きと水分のさばきを整えることで力になります。疲れやすく、手足が冷え、胃が弱いタイプの方に向いています。


●③香蘇散(こうそさん)

香附子(こうぶし)、蘇葉(そよう)、陳皮、生姜、甘草という、いずれもおだやかな生薬で構成された処方です。気の巡りをのびやかにし、胃の調子を整えながら、軽く体を温める働きが期待されます。構成生薬が少なく作用が穏やかなため、胃腸が弱い方や、強い処方が負担になりやすい方にも使いやすいとされます。向いているのは、不安や緊張でため息が多い、気分がふさぐ、お腹が張る、においに敏感で食欲が落ちるといった、気の滞りが目立つ方です。


●④半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

半夏、厚朴(こうぼく)、茯苓、蘇葉、生姜の5つから成る処方です。のどや胸のつかえ感をゆるめ、気の巡りを整えることを得意とします。のどに何かが引っかかる感じ、胸がふさがる、深く息が吸えない、動悸(どうき)がする、緊張すると吐き気が出るといった訴えに用いられてきました。妊娠中は不安が胸やのどの詰まり感として出やすく、緊張がゆるむと呼吸が深くなり、体全体の力も抜けやすくなります。むくみやすい方、心配ごとで眠りが浅い方にも検討されます。


●⑤人参湯(にんじんとう)

人参、乾姜(かんきょう)、白朮、甘草の4つで構成される、体の芯を温めることに特化した処方です。お腹が冷たく、冷たいものを口にするとすぐ下痢や腹痛になる、胃のあたりに水が溜まった感じがある、疲れると顔色が白くなるといった、冷えが強く胃腸の力が落ちているタイプに向きます。乾姜(蒸して乾かした生姜)が持続的にお腹を温めます。ただし、のぼせやほてりが強い方、暑がりの方には合いません。体質の見極めが重要ですので、必ず専門家にご相談ください。


薬膳素材

棗(なつめ)。気と血をおだやかに補い、気持ちを落ち着ける食材です。そのままおやつに、刻んでお粥やスープに。1日2〜3粒が目安です。

龍眼肉(りゅうがんにく)。血を補い、心を落ち着かせるとされます。眠りが浅い方に。数粒をそのまま、または紅茶に浮かべて。

枸杞の実(くこのみ)。血とうるおいを補う代表格で、目の疲れや肌の乾燥が気になる方に。お粥やヨーグルトに散らすほか、お湯に浮かべてお茶にも。

松の実(まつのみ)。良質な油分を含み、体をうるおして腸のはたらきを助けます。軽く炒って炒め物やお粥に散らします。

蓮肉(れんにく)。蓮(はす)の実で、胃腸をおだやかに整え、気持ちを落ち着けるとされます。スープや煮物に。

蒸し生姜(乾姜・かんきょう)。蒸して乾かした生姜は、体の内側をじんわり長く温めるとされます。粉末を少量、味噌汁や紅茶に。耳かき1杯程度から始めましょう。

杜仲(とちゅう)茶。カフェインを含まず、妊娠中の水分補給に取り入れやすいお茶です。温かくして少しずつどうぞ。

いずれも食品ですが、一度にたくさん摂らず、少量を毎日続けることを心がけてください。体調に不安があるときは主治医や薬剤師にご相談ください。


注意が必要な漢方薬

妊娠中は、ふだんなら問題なく使える生薬でも慎重さが求められます。まず、腸を強く刺激して排便を促す大黄(だいおう)やセンナ、芒硝(ぼうしょう)を含む処方です。腸の強い動きが子宮の収縮を誘発するおそれがあるため、妊娠中は原則として避けます。市販の便秘薬にもセンナ類が含まれることが多く、成分表示の確認が欠かせません。

次に、血を強く動かすとされる牡丹皮(ぼたんぴ)、桃仁(とうにん)、紅花(こうか)などです。これらを含む処方は妊娠中には慎重に扱うべきものとされます。麝香(じゃこう)を含む製剤も、妊娠中は避けるべきものとして注意喚起されており、市販の滋養強壮薬や丸薬に含まれることがあります。

さらに、麻黄(まおう)は動悸や血圧上昇、不眠を招くことがあり、附子(ぶし)は刺激が強く、いずれも慎重な判断が必要です。甘草(かんぞう)は多くの処方に含まれますが、複数の薬を併用すると摂取量が重なり、むくみや血圧上昇につながることがあります。

「漢方だから安全」と考えないことが大切です。市販の漢方薬を自己判断で飲み始めず、服用中のものはすべて産婦人科と薬剤師に伝えてご相談ください。


おすすめの食品

栄養面では、まず鉄分です。妊娠中は血液量が増えるため鉄が不足しやすく、赤身の肉、レバー(ビタミンAの摂りすぎに注意し少量に)、かつお、まぐろ、あさり、小松菜、ほうれん草などを意識して取り入れましょう。ビタミンCを含む野菜や果物と一緒にとると吸収が助けられます。

たんぱく質は体をつくる材料であり、体温を保つ土台でもあります。鶏肉、白身魚、卵、豆腐、納豆といった消化のよいものを毎食少しずつ。妊娠後期は胃が圧迫されて量が入りにくいため、回数を分けるのが現実的です。

葉酸は緑黄色野菜、ブロッコリー、アスパラガス、いちご、納豆などに多く含まれます。ビタミンEは血の巡りを助ける栄養素として知られ、アーモンドやくるみ、かぼちゃ、アボカド、植物油から摂れます。ナッツは前述の松の実とあわせて常備しておくと便利です。

東洋医学の視点では、体を温め気血を補う食品が中心です。かぼちゃ、にんじん、さつまいも、山いもといった根菜やいも類は、胃腸にやさしくエネルギーを補う代表格。鶏肉、鮭、えびは体を温めるとされます。黒豆、黒ごま、黒きくらげ、ひじきなどの黒い食材も、体の土台を養う食材として親しまれてきました。調理法も大切で、生野菜より蒸す・煮る・スープにするなど、温かく消化しやすい形をおすすめします。朝に温かい味噌汁を一杯加えるだけでも、一日の温まり方が変わります。


避けた方が良い食品・飲み物

まず、体を冷やすものです。氷入りの飲み物、アイスクリーム、冷たいジュースは、飲んだ直後にお腹を内側から冷やします。夏場でも常温か温かいものを選びましょう。刺身やそうめんなど冷たい食事が続くときは、温かい汁物を添えてバランスを取ります。きゅうり、トマト、すいかなど体を冷やすとされる食材は、量を控えめにするのがおすすめです。

カフェインは、妊娠中は1日コーヒーカップ2杯程度(200mg前後)までを目安とするよう推奨されることが多く、摂りすぎに注意が必要です。コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンクのほか、ココアやチョコレートにも含まれます。ノンカフェインの杜仲茶に置き換えるのもよい方法です。

アルコールは量にかかわらず胎児への影響が指摘されているため、妊娠中は控えてください。塩分の摂りすぎもむくみや血圧上昇につながります。だしや香味野菜の香りを利用すると、薄味でも満足感が得られます。


日常生活での対策

逆子体操(胸膝位(きょうしつい)などの姿勢)は広く知られていますが、お腹の張りが強いときや切迫早産の傾向がある方には適さない場合があります。行う時期も方法も人によって異なりますので、必ず主治医の指示や許可のもとで行ってください。

横向き寝も定番の工夫です。どちら向きがよいかは赤ちゃんの背中の向きによって変わるため、健診で確認したうえで主治医や助産師に相談して決めましょう。

お灸については、至陰(しいん・足の小指の外側)や三陰交(さんいんこう・内くるぶしの上)といったツボが古くから知られています。ただし妊娠中の施灸は時期や体調によって注意が必要です。必ず主治医の許可を得たうえで、鍼灸の専門家のもとで行ってください。

そのほか大切なのが下半身の保温です。腹巻きやレッグウォーマーで、お腹・腰・足首を冷やさないようにしましょう。ぬるめの入浴や、足首を回すといった軽い動きも巡りを助けます。睡眠は気を養う時間ですので、夜更かしを避けてください。そして、不安をひとりで抱え込まないこと。話す、書き出す、深く息を吐く。そうした小さなことが、体のこわばりをゆるめてくれます。


まとめ

逆子(骨盤位)は妊娠28週頃には約25〜30%にみられ、分娩時には約3〜5%まで減っていくといわれます。漢方では、赤ちゃんの向きを直接どうこうするのではなく、体の冷えをとり、気と血の巡りを整えて、赤ちゃんが動きやすい環境をつくるという発想でお手伝いします。

今回ご紹介した当帰芍薬散、六君子湯、香蘇散、半夏厚朴湯、人参湯は、いずれも体質によって向き不向きがあります。とくに運龍堂がおすすめしたい六君子湯は、胃が圧迫されて食欲が落ちる時期の心強い味方です。あわせて、なつめや枸杞の実、蒸し生姜などを毎日少しずつ取り入れ、下半身を温める習慣を続けてみてください。

大前提として、妊娠中の体は産婦人科の管理のもとにあります。漢方薬の服用も、逆子体操やお灸も、必ず主治医と相談したうえで進めてください。体を整える時間は、そのあとのお産や産後の回復にもつながっていきます。

杜の都の漢方薬局 運龍堂では、妊娠中の体質や生活に合わせたご相談を承っております。ご来店が難しい方にはオンライン相談(オンライン診療)にも対応しておりますので、遠方の方やお腹が大きく外出がつらい方も、ご自宅からお気軽にご相談ください。


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