着床しやすい子宮内膜を育てる漢方|内膜が薄い・血流が届かない体質を整える

はじめに

妊活に取り組むなかで、「排卵はきちんとあるのに、なかなか着床しない」「体外受精(体の外で卵子と精子を受精させる治療)で良好な胚(はい=育った受精卵)を戻しても結果につながらない」というお悩みを抱える方は少なくありません。日本産科婦人科学会の報告によると、国内の体外受精・胚移植(はいいしょく=胚を子宮に戻すこと)による移植あたりの妊娠率は、およそ三割前後にとどまるとされています。

良好胚(育ち方が順調な胚)を移植しても、着床に至らないケースが一定数存在するとされています。その背景のひとつとして注目されているのが、受精卵を迎え入れる「土壌」である子宮内膜(しきゅうないまく=受精卵のベッドになる膜)の状態です。内膜が薄い、血流が届きにくい、冷えて硬いといった状態では、着床の環境が十分に整いにくいと考えられています。

漢方では、こうした内膜の状態を「血(けつ=全身に栄養とうるおいを届けるもの)」と「腎(じん=成長・生殖・老化をつかさどる、生命力の源)」の力の反映と捉え、体質そのものを整えることで妊娠しやすい土台づくりを目指します。今回は、着床しやすい子宮内膜を育てるための考え方について、運龍堂の視点から解説します。


子宮内膜が育ちにくくなる理由

● 西洋医学的な観点から

子宮内膜は、卵胞期(らんぽうき=月経後から排卵までの時期)にエストロゲン(卵胞ホルモン)の作用で増殖します。排卵後は黄体(おうたい=排卵のあと卵巣にできて、ホルモンを出す部分)から分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)の作用で、分泌期内膜へと変化します。

分泌期内膜とは、受精卵を迎えられる状態に変化した内膜のことです。この分泌期内膜が、受精卵を受け入れられる「着床の窓」を形成し、排卵後およそ六日目から十日目にかけての限られた期間だけ開くとされています。一般に胚移植の目安として、排卵期の内膜厚は八ミリメートル以上が望ましいとされ、七ミリメートル未満では妊娠率が低下する傾向が報告されています。

内膜が薄くなる原因としては、加齢によるエストロゲン分泌の低下、子宮内腔の手術(人工妊娠中絶や掻爬術)による基底層の損傷が挙げられます。掻爬術(そうはじゅつ)とは子宮の内側をかき出す手術で、基底層(きていそう)とは内膜が毎回そこから再生する土台の層のことです。ほかに、慢性子宮内膜炎(子宮の内側に炎症がくすぶって続く状態)、クロミフェン(排卵を促す飲み薬)など一部の排卵誘発剤による内膜への影響、そして子宮動脈の血流低下なども挙げられます。

子宮動脈とは、子宮へ血液を送る血管のことです。特に子宮動脈の血流抵抗(RI値=血液の流れにくさを示す指標)が高い場合、内膜への酸素と栄養の供給が不足し、厚みだけでなく質そのものが低下しやすいと考えられています。冷えや運動不足、喫煙、極端な体重減少も、血流とホルモンの分泌(内分泌)の双方に影響するとされています。


● 東洋医学(漢方)の観点から

東洋医学では、子宮内膜は「血(けつ)」が満ち、「腎精(じんせい=生命力のもとになる大切な蓄え)」に支えられて育つものと考えます。したがって内膜が薄い方に多いのが血虚(けっきょ=栄養とうるおいを届ける血が足りない状態)です。

血虚とは全身をうるおし養う血が不足した状態で、月経量が少ない、経血(けいけつ=月経で出る血)の色が淡い、顔色が白い、爪が割れやすい、めまいや不眠を伴うといった特徴があります。次に多いのが瘀血(おけつ=血の流れが滞った状態)で、血の巡りが滞り、内膜に栄養が届かない状態です。経血に塊が混じる、月経痛が強い、舌の色が暗紫色、下腹部の刺すような痛みなどが目印となります。

さらに腎虚(じんきょ=生命力の蓄えが減った状態)は、生殖機能の根本である腎の力が不足した状態で、加齢や過労、慢性的な睡眠不足によって進みます。腰や膝がだるい、冷えやすい、基礎体温の高温期(排卵後に体温がやや上がる時期)が短いといったサインが現れます。加えて気虚(ききょ=エネルギー不足)では、血を巡らせ内膜を支える推動力(すいどうりょく=押し動かす力)が不足し、疲れやすさや息切れ、内膜の維持力低下につながるとされています。多くの方はこれらが複合しており、体質を見極めることが大切です。

主な症状

子宮内膜が育ちにくい方によくみられるのは、月経の量が以前より明らかに減った、月経日数が二日から三日と短くなった、経血の色が薄いピンク色や褐色である、といった月経の変化です。また基礎体温の高温期が十日未満と短い、高温期の体温が上がりきらない、体温がガタガタと不安定になるといった傾向もみられます。

全身症状としては、手足の冷え、下腹部や腰の冷感、疲れやすさ、立ちくらみ、肌や髪の乾燥、寝つきの悪さなどが挙げられます。婦人科の超音波検査(エコー検査)で内膜が七ミリメートルに届かないと指摘された、あるいは良好胚を移植しても着床しなかった経験がある方は、これらのサインが重なっていないか確認してみるとよいでしょう。


服用可能な漢方薬・薬膳素材

 

ここでは、妊活期の内膜の状態を整える目的で用いられることの多い代表的な処方をご紹介します。いずれも体質、すなわち証(しょう=その方の体質と今の状態を漢方的に見立てたもの)に合わせて選ぶことが前提であり、自己判断での服用は避け、必ず専門家にご相談ください。


● ① 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、茯苓(ぶくりょう)、白朮(びゃくじゅつ)、沢瀉(たくしゃ)の六味(ろくみ=6種類の生薬)から成る、婦人科領域で最も広く用いられる処方のひとつです。ここでいう生薬(しょうやく)とは、漢方薬の原料になる植物や鉱物などの素材のことです。

血を補いながら巡らせる作用と、余分な水分をさばく作用を併せ持ち、血虚と水滞(すいたい=余分な水分が体にたまった状態)が重なった状態に用いられます。色白でやせ型、冷え症で疲れやすく、めまいやむくみを伴い、月経量が少ない方に適するとされています。妊活期の基本処方として長期に用いられることが多く、内膜を養う土台づくりに向くと考えられています。


● ② 温経湯(うんけいとう)

呉茱萸(ごしゅゆ)、当帰、芍薬、川芎、人参(にんじん)、桂皮(けいひ)、阿膠(あきょう)、牡丹皮(ぼたんぴ)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)、半夏(はんげ)、麦門冬(ばくもんどう)などから構成されます。名前のとおり「経(けい=月経や子宮につながる体の通り道)を温める」処方で、下腹部の冷えを取り除きながら血を補い、乾燥を潤す働きを持つとされています。手のひらがほてる一方で足腰は冷える、唇や皮膚が乾燥する、月経が遅れがちで量が少ないという方に用いられます。冷えと乾燥が同居する内膜の状態に向くとされる代表的な処方です。


● ③ 十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)

人参、白朮、茯苓、甘草、当帰、芍薬、地黄(じおう)、川芎、黄耆(おうぎ)、桂皮の十味(じゅうみ=10種類の生薬)から成り、気(き=体を動かし、温めるエネルギー)と血の両方を大きく補う処方です。気血両虚(きけつりょうきょ=エネルギーも栄養も不足した状態)といって、疲労感が強く、顔色が悪く、貧血傾向があり、月経量が極端に少ない方に用いられます。全身の栄養状態と血流を底上げすることで、内膜を育てる力を支えると考えられています。体力が落ちている方、採卵(さいらん=卵子を取り出す処置)や移植を繰り返して消耗を感じている方に検討されることがあります。


● ④ 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

【挿入画像:07_骨盤内の血流が整い内膜に届くイメージ.png】

桂皮、茯苓、牡丹皮、桃仁(とうにん)、芍薬の五味(ごみ=5種類の生薬)から成る、瘀血を改善する代表的な処方です。血の滞りを取り除き、骨盤内の血流を促すことで、内膜へ栄養が届きやすい状態を目指します。比較的体力があり、のぼせやすく足は冷える、月経痛が強く経血に塊が混じる、肩こりや頭重感(ずじゅうかん=頭が重く感じること)がある方に適するとされています。ただし桃仁・牡丹皮を含むため、妊娠が成立した後の継続については必ず医師・薬剤師の指示に従ってください。

● ⑤ 鹿茸(ろくじょう)などの補腎薬

鹿茸(ろくじょう)、は、生殖機能の根本である腎精を補い、卵の質や内膜を育てる力を高める目的で用いられます。年齢を重ねてから妊活を始めた方、基礎体温の高温期が短い方、腰や膝のだるさ、冷え、疲労感が強い方に向くとされています。効果の実感まで三か月から半年程度の継続が必要とされることが多く、他の処方と組み合わせて用いられる場合もあります。



● 薬膳素材

日々の食養生では、血を補い温める素材を取り入れることが基本となります。棗(なつめ)は補血(ほけつ=血を補うこと)と安神(あんじん=気持ちを落ち着かせること)の代表格で、鉄分や食物繊維も豊富です。

棗を三粒ほど、お茶や煮込み料理に加えると続けやすいでしょう。枸杞子(くこし)は肝腎(かんじん=肝と腎)を補い、目の疲れや乾燥にもよいとされる素材で、ヨーグルトやスープに散らすだけで取り入れられます。

竜眼肉(りゅうがんにく)は心脾(しんぴ=心と脾)を養い、血虚による不眠や動悸が気になる方に向くとされ、棗と合わせてお茶にするのがおすすめです。

黒胡麻(くろごま)は腎を補い髪や肌をうるおすとされ、すりごまにしてご飯や味噌汁にかけると吸収がよくなります。当帰葉(とうきよう)や黒豆(くろまめ)も、血を巡らせ腎を養う目的でよく用いられます。

黒豆は煎じてお茶にすると香ばしく、毎日の水分補給として続けやすい素材です。さらに山薬(さんやく=長芋)は脾腎(ひじん=漢方でいう胃腸のはたらきと腎)を同時に補い、消化力の弱い方でも取り入れやすい食材です。

これらは薬ではなく食材ですので、一種類に偏らず、季節や体調に合わせて数種を組み合わせ、少量ずつ長く続けることが大切とされています。



注意が必要な漢方薬

妊活中、とりわけ排卵後から妊娠判定までの期間や、妊娠が成立した後には、慎重に扱うべき生薬があります。まず大黄(だいおう)は瀉下(しゃげ=お通じを促すこと)作用が強く、腸の蠕動(ぜんどう=腸の動き)を強く促すことで子宮の収縮を誘発する可能性があるとされ、原則として妊娠中は避けるべき生薬とされています。麝香(じゃこう)は強い活血(かっけつ=血の流れを動かすこと)・開竅(かいきょう=意識や感覚の通り道を開くこと)作用を持ち、古来より妊婦への使用が禁じられてきました。牡丹皮、紅花(こうか)、桃仁は活血化瘀(かっけつかお=滞った血を動かして、滞りを取り除くこと)の作用が強く、瘀血体質の改善には有用ですが、妊娠成立後の継続は慎重な判断が必要とされています。

同様に、莪朮(がじゅつ)、三稜(さんりょう)、水蛭(すいてつ)といった破血(はけつ)作用の強い生薬も避けるのが一般的です。破血とは、血のかたまりを砕くほど、さらに作用の強いものを指します。

慎重使用(必要性と量を確かめて慎重に使う扱い)が求められるものとしては、芒硝(ぼうしょう)、附子(ぶし)、半夏、薏苡仁(よくいにん)などが挙げられます。必ず漢方に精通した薬剤師や医師にご相談のうえで服用してください。


おすすめの食品

栄養素の面では、まず鉄分が重要です。赤身の牛肉、レバー、かつお、まぐろ、あさりなどのヘム鉄(動物性の、吸収されやすい鉄)は吸収率が高く、内膜を育てる血液の材料となります。ビタミンCを含む野菜や果物と一緒にとると吸収が高まるとされています。

次に葉酸(ようさん=赤ちゃんの脳や背骨のもとになる部分づくりに関わるビタミン)で、ほうれん草、ブロッコリー、枝豆、アボカドなどに多く含まれ、妊活中は一日四百マイクログラムの摂取が推奨されています。タンパク質は卵、豆腐、納豆、鶏肉などから十分に確保し、ホルモンや細胞の材料を切らさないようにします。

ビタミンEはアーモンド、かぼちゃ、うなぎなどに含まれ、末梢(まっしょう=手足の先)の血行を保つ働きが期待されています。ビタミンDは鮭、いわし、きのこ類に多く、着床環境(受精卵が着床しやすい子宮の状態)や免疫の調整との関連が研究されています。東洋医学的には「黒い食材」と「赤い食材」が要となります。

黒豆、黒胡麻、黒きくらげ、ひじき、海苔といった黒色食材は腎を補うとされ、内膜を育てる根本の力を支えます。人参、トマト、赤身肉、鮭、小豆などの赤色食材は血を養うとされています。加えて、生姜、シナモン、ねぎ、にらなどの温性食材(おんせいしょくざい=体を温める性質の食材)を汁物や炒め物に少量加えることで、骨盤内の血流を保ちやすくなると考えられています。冷たいサラダより、温かいスープや煮込み料理を中心に組み立てるとよいでしょう。


避けた方が良い食品・飲み物

まず控えたいのが、体を冷やす飲食物です。氷入りの飲み物、アイスクリーム、冷たいスムージー、夏野菜や南国の果物(きゅうり、トマトの生食、スイカ、バナナ、マンゴーなど)を大量にとることは、骨盤内の血流を低下させる要因になりうるとされています。白砂糖を多く含む菓子や清涼飲料水は、血糖の急激な変動を招き、ホルモンバランスに影響する可能性が指摘されています。カフェインは一日あたりコーヒー二杯程度(カフェイン二百ミリグラム未満)を目安とし、それ以上の摂取は控えるほうが無難とされています。

アルコールは血流を一時的に促すものの、妊娠の可能性がある時期には控えることが望ましいとされています。またトランス脂肪酸(とりすぎると体の負担になるとされる脂)を多く含む揚げ物やマーガリン、加工菓子の常食、極端な糖質制限や過度なダイエットも、内膜を育てる材料不足につながるため注意が必要です。


日常生活での対策

まず運動では、骨盤内の血流を促すウォーキングを一日二十分から三十分、週に四日以上続けることが目安とされています。加えてスクワットやかかと上げなどで下半身の筋肉を使うと、血液を心臓へ送り返すポンプ機能が高まります。ヨガの合蹠(がっせき=足の裏を合わせて座り、股関節をゆるめる形)のポーズや股関節のストレッチも、骨盤周囲の緊張をゆるめるのに役立つとされています。

睡眠は、成長ホルモンやメラトニン(夜に増える、眠りを導くホルモン)の分泌を考えると、夜十一時までに就寝し七時間前後を確保するのが理想です。就寝前のスマートフォンの使用は控えめにしましょう。冷え対策としては、三十八度から四十度のぬるめのお湯に十五分ほど浸かる入浴を毎日の習慣にし、腹巻きやレッグウォーマーで下腹部と足首を温めます。ストレス管理も欠かせません。過度な緊張は自律神経(じりつしんけい=意思とは関係なく内臓や血管を調整する神経)を通じて子宮動脈を収縮させるとされるため、深呼吸や軽い散歩、趣味の時間を意識的に確保してください。

ツボでは、内くるぶしの上約四横指(指四本を並べた幅)にある三陰交(さんいんこう)、おへその下約四横指の関元(かんげん)、仙骨(せんこつ=おしりの中央にある骨)のくぼみにある次髎(じりょう)が、婦人科領域でよく用いられます。指の腹でゆっくり押す、あるいは温灸(おんきゅう=お灸でじんわり温めること)で温めるとよいとされています。


まとめ

着床しやすい子宮内膜を育てるためには、内膜の厚みという数字だけを追うのではなく、その内膜を作り出している血の量、血の巡り、そして腎の力という体全体の土台に目を向けることが大切です。西洋医学では排卵期の内膜厚八ミリメートル以上が目安とされますが、東洋医学ではその背景にある血虚、瘀血、腎虚、気虚といった体質を見極めます。

そのうえで、当帰芍薬散や温経湯、十全大補湯、桂枝茯苓丸、補腎薬などを組み合わせて整えていきます。同時に、鉄分やタンパク質を確保する食事、黒い食材と温性食材の活用、冷えを避ける生活、十分な睡眠、適度な運動、そしてストレスとの付き合い方を見直すことが、内膜という土壌を耕すことにつながると考えられています。

ただし、体質は一人ひとり異なり、同じ「内膜が薄い」というお悩みでも適する処方はまったく変わります。市販の漢方薬を自己判断で選ぶのではなく、専門家による丁寧な体質の見極めをおすすめします。

仙台の漢方薬局「運龍堂」では、妊活中の方の体質やこれまでの治療経過を詳しくうかがったうえで、お一人おひとりに合わせた漢方薬と養生法をご提案しています。ご来店が難しい方のために、オンライン診療(オンライン相談)にも対応しておりますので、遠方にお住まいの方もお気軽にご相談ください。


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